「若返りの術を掛けて欲しい、ですか」
「ええ、そうよ」
竹林の奥地、永遠亭の一室。
この日、輝夜に呼び出されていた白蓮は、その提案に首をかしげた。
「だって、興味が湧くと思わない？不変の生物に変化を促すなんて事、今まで誰も実験した事が無い事なのよ？」
「確かにそうですが……本当に効くのでしょうか？貴女はとても特別な人間で、薬の類が効かないと聞いておりますが」
「だから、それの実験も兼ねているの」
輝夜が飲んだ蓬莱の薬は、その魂を肉体と切り離し、もし命を落とすような事が有ったとしても、肉体を再生する事で再生する事が出来る様になるものである。
普通ならば服用した時点で肉体の時は止まり、そこから変化する事は無くなる。
しかし、その再生する肉体を術によって捻じ曲げることができるならば。
「この身体も好きだけれど、やっぱり変われるのなら変わってみたいじゃない」
「……この術はそんなに軽々しく行うものでは有りません、もしも貴女の身に何か有れば……」
「大丈夫よ、永琳にはちゃんと私から話してあるし、勿論私は賛成よ」
何処か重苦しく言葉を紡ぐ白蓮とは対照的に、興味津々といった面持ちで期待の眼差しを向ける輝夜。
少しの沈黙の後、白蓮は静かに眼を瞑り、何かを呟いた。
そして、
「……分かりました。 施術の日取りはどうしましょうか？」
「今ここで」
「分かりました」
白蓮は深く頷き、音も無く立ち上がりエア巻物を広げた。
空に煌びやかに広がる巻物の美しさに輝夜が感嘆の息を漏らすが、白蓮は既に精神を集中させ、術の詠唱に入っている。
そわそわしながら待つ輝夜。
何事かを呟き、術を展開する白蓮。
それから間も無く、小さなその一室は眩い光に満ちた。
「――輝夜っ！？」
光が消えた部屋に、永琳が急ぎ駆け込んできた。
白蓮は欠片も動じず、ゆっくりと永琳に向き直って、告げる。
「……安心してください、術は成功しました」
そう言う白蓮の向こう側に、一人の赤ん坊が居た。
見目は幼くとも濡れ羽色の長髪、体系に比べて大き過ぎる十二単。
その場所にはつい先刻まで蓬莱山輝夜が居た。いや、今も幼子となって居ると、十二分に示していた。
「そう、良かったわ……こんな事を言い出した時はどうかと思ったけど」
「流石に人間以外に使用する事は初めてでしたので、少し強引になってしまいましたが、効き目は有るみたいですね」
ほっと胸をなでおろす永琳。その二人を、幼子の声が賑やかに包む。
「それじゃあ、輝夜を元に戻して頂戴。今の姿のままだと色々と困るのよ」
永琳が赤子となった輝夜を見て、白蓮に頼む。
しかし白蓮は顔色を変えず、ただ淡々と永琳に答えた。
「……私は、若返る術は知りえていますが、老化を進める術は心得が有りません。そしてそれを学ぶ術も、今となっては滅んでしまっているでしょう」
――もう、無理です
白蓮の言葉は、永琳を矢の如く貫いた。
ライアさん：竹
KASA (2011-06-05 02:17:24)
ほんのりホラー
カミソリの(人‾▿◝)～♥ ❤～(◕‿‿◕） (2011-06-05 02:17:27)
悲しいお話よね
つくね＠鈴 (2011-06-05 02:17:40)
これ上手いなぁ、と思った。
葉月 (2011-06-05 02:18:16)
着想は良いですね
ぷらせぼ (2011-06-05 02:18:28)
「もう無理」が、重いですね。
葉月 (2011-06-05 02:18:30)
ただ
つくね＠鈴 (2011-06-05 02:18:32)
でも
葉月 (2011-06-05 02:18:33)
＞――もう、無理です
Sphe (2011-06-05 02:18:42)
よく見ると、怖い話なんだけど、 よく見ないと怖いと思わなかったのは、私の読解力不足？
葉月 (2011-06-05 02:18:45)
までが薄い
ライア（文ちゃんＬＯＶＥ ※最近芳香ちゃんに浮気してます (2011-06-05 02:18:54)
求：時間
つくね＠鈴 (2011-06-05 02:18:59)
竹取物語で赤子から成長してるというのがなぁ。
Sphe (2011-06-05 02:19:03)
永琳の絶望感が、足りないのかな。
Sphe (2011-06-05 02:19:50)
蓬莱の薬を以て、全く不変になったことを、もう少し明示すればよかったのかな。
ぷらせぼ (2011-06-05 02:19:53)
タメが欲しかった以上に、余韻が欲しかったような。
かじつ (2011-06-05 02:20:41)
やはり竹取物語で輝夜が成長したというのがネックになるのかな。
Sphe (2011-06-05 02:21:04)
だなぁ。私も、最初読んだとき「ああ成長待たないとね」って思っちゃったし。
ライア（文ちゃんＬＯＶＥ ※最近芳香ちゃんに浮気してます (2011-06-05 02:21:29)
竹取物語のかぐやひめと東方の輝夜の関係が思いつかなかった
かじつ (2011-06-05 02:21:51)
読者は重ねて読むだろうからね。
かじつ (2011-06-05 02:22:04)
そこさえなんとか打ち破れれば、これはかなり良い話になると思ふ。
ライア（文ちゃんＬＯＶＥ ※最近芳香ちゃんに浮気してます (2011-06-05 02:22:07)
このお話的には、東方の輝夜なのだけれど
Sphe (2011-06-05 02:22:07)
ある程度輝夜について考えている人なら、重ねて読みますね、たぶん。
葉月 (2011-06-05 02:22:21)
そうですね。
葉月 (2011-06-05 02:22:29)
たぶんほとんどが重ねると思う。
ライア（文ちゃんＬＯＶＥ ※最近芳香ちゃんに浮気してます (2011-06-05 02:22:41)
その辺り、蓬莱人の説明である程度フォローしていたつもりだけれど
Sphe (2011-06-05 02:22:43)
やっぱり、蓬莱の薬の所で、もはや肉体は変わらぬこと、そして竹取での成長が例外に過ぎないことを示せば
Sphe (2011-06-05 02:22:57)
いいのだろうなぁ、と。 もっと明示。
かじつ (2011-06-05 02:23:23)
こういうやり取り見ているとさ
かじつ (2011-06-05 02:23:38)
けっこう明確なモチーフがあると言うのは、本当に善し悪しだね。
ライア（文ちゃんＬＯＶＥ ※最近芳香ちゃんに浮気してます (2011-06-05 02:23:42)
個人的には、白蓮の感情描写をもっとどうにかしたかった
Sphe (2011-06-05 02:24:21)
白蓮はこんな感じでもいいかなとか思うけど。
ぷらせぼ (2011-06-05 02:24:29)
すぐに成長するかと思われたが、なかなかどうして……、という展開が挟まっていれば、多少説得力が出たのではないかと。
ぷらせぼ (2011-06-05 02:24:45)
予防線的に。
Sphe (2011-06-05 02:24:46)
さらりと、無感情なくらいで。 戻れない、そんなのしらねぇよ、ってかんじで。
葉月 (2011-06-05 02:25:20)
そんな感じで。
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