さて、皆さん。
幻想郷では妖怪の食事はどうあるべきと思います?
やはり他の理性ある種族を尊重し、野生の肉や草花で空腹を満たすべきと。そういった常識人は確かに多く、鴉天狗たちも人というものを口にするのを控えている節はある。
それでも、幻想郷の需要供給の常識を覆す存在がいたとすれば、
「ねえ、天狗さん。鷹狩りはお好き?」
この、厄介極まりない西行寺という人物に間違いないであろう。
「……あの、そのえーっと鷹?」
「ええ、二本の足で歩き毛並みが白い、ちょっとだけ頼りがいのない鷹」
何故ここにいるのか、何が目的なのか。
そもそもここまで進入を許すとは哨戒天狗たちは何をやっているのか。
「鷹が通ったという報告は聞いておりません。すぐにお引き取りするべきかと思いますよ。お互いの立場のために」
「なんとも恐ろしい。鴉天狗様はか弱い女性に牙を向くのがお好みかしら? そんな大きな扇子で扇がれたら命を吹き飛ばされてしまいますわ」
「そもそも死んでいるではありませんか」
「……あらあら、それは盲点でした。ありがとう天狗さん」
まったくつかみ所がない。
目的すら聞き出せない。
早く来なさいと、椛の名前を心の中で呼んでみるが、はっとあることに思い当たる。
そういえばここ最近頻発する異常気象のせいで、山のほとんどの天狗がその調査という特別任務に当たっていることを。
よって、持ち場も大きく変動し。
私はその警備の隙が突かれそうな場所にわざと陣取って、記事になるネタを探していたのだ。
つまり、その……
「自業自得……、なんて言葉で言い表したくない事実ですな、これは」
スペルカードバトルでなければ、対峙すること自体危険な妖怪。
相手の命をあっさりと消し飛ばす力を持った亡霊の姫君が相手となれば、やはり。
先手必勝。
スペルカードバトルを仕掛けて早々に立ち去ってもらうのが吉というものでしょう。
さきほどまで騒いでいた、赤い雲が大人しくなった今こそ。
安心して空を舞うこともできるというもので、
「……へぇ~」
そうやって私が空をちら見していたことを悟ったのだろうか。
亡霊の姫は指を唇に当て、高い声で唸ると。
くすり、と。
いきなり笑みを作って、それを取り出した扇子で隠して、
「鷹が獲物を仕留めたようですし、お暇するといたしましょう」
「は? あの?」
「御機嫌よう、可愛い天狗さん。さて、退屈しのぎのお茶請けを期待いたしましょう」
意味不明な言葉を残し、木々の中へと消えていく。
私はそんな、奇妙な空間に取り残されたまま。
大きく鳴り続ける胸に手を置いた。