「さみぃ」
ぶるりと肩を振るわせ呟いたのはチルノ。氷の妖精である。
冷気を操るチルノをして寒いと言わしめる寒気。異常であった。
「まぁたあいつがくるのか」
うんざりといった表情で舌打ちをする。
レティ・ホワイトロック。冬になるとどこからともなく現れる雪女である。
いつもは陽気に湖で遊んでいるチルノだが、冬の訪れとともにやってくるその気配には敏感だ。その表情には影が差していた。
「……きた」
寒気に振り向く。
「はぁい」
柔らかい笑みでレティはチルノに挨拶する。
「ふん、一年ぶりねレティ。相変わらずふと――」
「うぇっぷしゅん!」
「…………」
「ここ寒くない?」
仇敵に投げかける文句を遮られた怒りよりも、雪女から出てきた「寒い」という言葉に驚きが隠せなかった。
「いや、あんた雪女でしょ。おかしいでしょそれ」
「チルノだってさっき言ってたじゃない」
「聞いてたのかよー」
「ばっちり」
――冷気を操る氷の妖精と、寒気を操る雪女は、なんと冷え性であった。