キスメとヤマメは自分自身に使命を課した。
地上と地底に友好関係が結ばれた今、二人はその力を旧都のため、地霊殿のために役立てようと誓ったのだ。
温泉や、新エネルギーの開発所等。そんなところでは役に立てないかもしれないけれど。
自分たちの力で、お客を引き入れて見せる、と。
「いくよ、キスメ」
「……(こくん)」
そんな決意を抱いた瞳が見下ろす中。
ほら、今日も地上からやってきた家族連れの人間がやってきて、
「お父さんっ! 今日はどこにいくのー?」
「そうだなねー、旧都ってところにいってみようか。山の巫女さんが関係してる施設もあるらしいけど」
楽しそうに、手など繋ぎ。
奥へと向かおうとする。
会話を聞いているだけだと、どうやら観光のつもりらしい。
「地上にはない珍しいものが売っているらしいよ。妖怪さんもいっぱいいるかなー?」
「あなた怖がらせないで」
「ははは、大丈夫さ。ここの妖怪は何もしなければ安全だって、阿求さんも言ってたじゃないか」
しかし、しかしである。
旧都によってくれるのも嬉しいが、やはりここは地霊の湯の方もご案内した方がいいだろう。
――さて、準備準備。
しゅるるるるるるるっ
「ねぇ? お父さん? なんか音が」
「ほんとだね、なんだろう天井から――」
すこーんっ、と小気味よい音がしたと思ったら。
父親と思しき人間の頭に、桶がクリーンヒット。いや、正確には桶の妖怪がクリーンヒット。
「はぅっ!?」
数メートルはあろうかという上からの不意打ちに、父親はあっさりと気を失ってしまい。
「おとうさぁぁぁぁんっ!?」
「あ、あなたああああああっ!」
残された二人が悲鳴を上げる中。
頭の上でバウンドしたキスメは、くるりっと空中で身を翻して。
にっこり、二人の前で、無言のままにっこりと営業スマイル。
キスメの体全体からは、一つのことを成し終えた達成感が滲み出ていたが、残された二人からしてみれば……
「ひぃっ!」
何をされるかわからない。
恐怖「つるべ落とし」以外の何者でもない。
身を寄せ合って震える母と子であったが、その背にはもう一人の妖怪が迫っていた。
「やぁやぁ! ようこそいらっしゃいました!」
そして、また『しゅるる』と音を立ててもう一人の妖怪、ヤマメだ。
また悲鳴を上げて振り返るが、今度は会話が通じそうな相手だったからだろうか。母親の方が声を震わせながら、紫色の霧を纏うヤマメの方へ歩み寄る。
「いきなり何をするのよ!」
「何って、ああ、ごめんね。ちょっと段取りがくるっちゃってさ」
「段取りって、何よ! それに、この煙も!」
「ああ、これ? これはね。ちょっとした病気の元さ~」
病気、という単語を聴いた瞬間。
母親がまた悲鳴を上げて子どもを抱いてしまったので、ヤマメは困ったように後ろ頭を掻いた。
「あ、大丈夫だってば! この病気ね。二日間ほどほっといたらあっさり人間の命くらい奪っちゃうんだけど。地霊殿から出る温泉の成分がよく効くんだよね。10分くらい浸かるだけで、もう元気びんびん! ほら、そこ父親の打撲の方にも温泉がよく効くんだよ。うんうん、だからさ、これから一緒に温泉にいってみない? え、いくって? いかせてほしいって?
はーい、さんめいさまごあんなーい!!」
キスメは気絶した父親を運びながら思った。さすが、ヤマメだ、と。
誠心誠意を込めた、思いやり。
それが、人間と妖怪の隔たりを埋めた。
ヤマメと一緒なら、きっと。
地霊殿をもっと親しみやすい世界にできる、と。
「はーい、こめかみぐりぐりの刑かなぁ~?」
「お燐、お空……本気でやっていいですからね?」
「え。えっと、ゆーぎさん、さとりさん? ……笑顔が……コ、コワイナァ…… は、はははっやっぱり、ほら、地底の人は助け合いが大事ってことで、ねえ、キス……
っていないし!」
だが、とりあえず……
命あってのものだねだと、キスメは理解した。
☆ ☆ ☆
「よし、今度は流しそうめんで客引きをしよう! 夏だし!
え? タレはどこにいれるのかって?
キスメの桶の中」
そして、友人を選んだ方がいいかなと思い始めるキスメであった。
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