「……つまり、寺子屋の授業の一環として読み聞かせをしたいから、絵本の類があったら貸してほしいと」
「簡潔に言葉にしてまとめてくださって助かります」
「別に。癖みたいなものだから」
慧音にそう応じると、パチュリーは頭の中で書架の配列をあらためなおした。
自分も、ついでに本泥棒も親しまない分野のため、思い出すまでに時間を有したが、その分配置がデタラメになっているということもないだろう。
「確か向こう側にあると思うわ。そう遠くないから案内させる必要もないわね。自分で探してちょうだい」
「ありがとうございます。……厚かましいかもしれませんが、パチュリーさんのオススメなどがあれば教えていただけませんか?」
「人間の子どもの好みなんて分からないわよ。教育によさそうなの、とかもダメ。そういうのは教育者が選びなさい」
「はは。手厳しいですね」
「分かったならさっさと行ったほうがいいわよ。ひょっとしたらめんどくさいヤツが来るかも」
その言葉の意味を慧音が問いただす前に、扉の方から蝶つがいがきしむ音がした。
「おや、珍しいケモノが居る」
「半分だけですけどね。こんにちはレミリアさん」
「噂をすれば影ね。おはよう」
あまり歓迎ムードでないのを知ってか知らずか、レミリアは勝手知ったるとばかりに、二人にならってテーブルについた。
「で、今日はどういう面白い話を持ってきたの?」
パチュリーの言葉通り寝起きなのか、口元もおおわずに大あくびをしてレミリアはそういった。
「いえ、面白いと言いますか。ただ、子ども達に読み聞かせるのに良い本がこちらにないかと」
「ふうん。お前もそういうこと考えるんだねえ。つまんない話で舟漕ぎの練習させるだけが能じゃないってわけだ」
「……そういうわけだし、そろそろ本を探しにいった方がいいんじゃない? あまりここで油を売るのもなんでしょう」
レミリアの唯我独尊な言動に慧音がしぶい顔つきをしているのを見てとって、パチュリーがそう促した。
別に慧音を気遣ったわけではなく、ここで暴れられるのがうっとうしいからというだけだが。
「そうですね。それじゃあ、そろそろ」
「おいおい。そっちに行ってどうするんだ?」
しかしこの吸血鬼は空気を読まないのだった。
「いえ、こちらに本があるということですから探しに」
「子どもに読み聞かせるんだろう? だったら別の方だろう。全く、パチェからなにを聞いたんだ」
「おかしいわね。私の記憶違いかしら。確かに普段は見ない場所だけれど」
「よし、案内してやるからついてこい」
「あ、はい。よろしくお願いします」
パチュリーが首を傾げている間に、二人は席をたって目的の書架へと向かっていく。
まあ結局、自分には関係のないことだとパチュリーは思考を切り捨てた。
◇
「それで、この子ども達はなに?」
「ケモノのところの生徒達。漫画を借りに来たんだってさ。ほら、一週間前――」
「覚えてるから大丈夫。読み聞かせなのに漫画?」
「いかにも子どもが好きそうじゃないか、漫画。あいつにも『そういうところで子ども心を掴めないからお前はダメなんだ』ってきつく言ってやった」
「……門番は寝てたのかしら」
「今頃、残りの子ども達と意気投合してるだろうよ」
子ども達のはしゃぎ声と、小悪魔が四方八方に飛び回って注意する声をバックに、パチュリーは頭を抱えた。
「子どもと半獣おことわり! とでも扉に札をさげておこうかしら……」