「はぁ……鬱い鬱い……鬱いよぅ」
私は旅の音楽団
その一員、そして大方の責任を負うこととなっている
つまり、リーダーである
名はルナサ・プリズムリバー
この音楽団は私の後ろの名前、プリズムリバーから取ってプリズムリバー楽団と名乗っている
和訳すると虹川とか、そんなのはどうでもいい、観客からそんなことを言われると、余計に鬱になるから。
「何で……メルランとリリカはあんなに……上手くいってるのに……」
私には下に二人の妹がいる。
言ったように、上からそれぞれメルラン、リリカだ
楽器の担当は私がヴァイオリン、メルランがトランペット、リリカがキーボードである
ヴァイオリンとトランペットって、どっちも高音なのによくリリカ一人で低音出ますね
そんなことはお構いなし、どうだっていいじゃない
「ああああ!もうっ!」
地団駄を踏む。
楽器を叩くとか、投げるとか、音楽家がそんなことをしたらそれで終わりだ。
でも、私はそんなことがしたくなるくらい鬱になっていた。
全く演奏が上手くいかない
今日なんかは特に酷かった、音を何回外したことか
そのたびに、妹たちにフォローされていては、姉として、リーダーとしても面目がたたないでしょ。
そんなわけで、どうしたらまた上手く演奏できるか、今下手な理由は何か、考えていたの。
で、全く分からなくて、でも下手なのは変わらなくて、鬱になっているわけ。
「ふぅんん……はぁあ……ぐすん」
もう泣きたくなってきた
助けてよ、誰か……妹たちには心配かけたくないんだよぅ……
誰でもいいから、誰か……
「うらめしやぁ!」
後ろから、とんでもなく暢気な声が聞こえてきた。
こんな奴どうせロクでもない能天気で馬鹿な奴だと相場は決まっている。
だから、気にしない
頼ったら何かに負ける気がする
だから、頼らない
振り向いたら、余計鬱になる気がする
だから、振り向かない
「こんなところで何してるんですかぁ?」
私がしなかったことを、あちらさんが全部やってくれたようだ、何しやがる。
仕方が無いので、切り株に座って下を向いていた私は、渋々顔を上げた。
カランコロンと鳴りそうな下駄、赤い鼻緒の下駄。
空色の洋服、紫色の唐傘、一つ目と大きな下がある傘
彼女の顔は赤と青の目がある。
青の目は私、赤の目はその暢気な彼女によく似ている気がした
「……帰ってくれる?」
「何さ、折角人が驚かしてるのにさ!」
「今そんな気分じゃないの」
「私を殴りたい気分?」
「えぇ、そうね……はぁ」
適当にあしらったから、きっと帰ってくれるだろう
帰ってくれ
頼むから、帰ってくれ
何としても、帰ってくれ
「じゃあ、殴る?」
そう来たか。
それは予想外だった、よし殴ろう
いや駄目だ、仮にも音楽家が手を怪我するなんて、そんなことは駄目だ
でもコイツ言葉通じそうに無いしなぁ……
「で、貴方は私にどうしてほしいわけ?」
「驚いてくれればあはーんです」
「わーびっくりー」
「……本当の驚きならの話ですけど」
ばれたか。
というか姿現してるのにどうやって驚かすのよ。
……もう、こいつでいいか
自分の対極の者の意見を聞いても、絶対変わるわけないけど
妹たちに聞くよりは、恥じゃないわ。
「ねぇ、一つ聞いていいかしら」
「驚いてくれるんですか?」
「……貴方、きっと長い間驚かれてないと思うのだけど、辛くない?」
彼女は、ちょっと悩んでから、すぐに私の殴りたかった顔に変わった。
「そりゃあ辛いですよ、驚いてもらうことが私の生きがいですし」
「でしょう?」
「でもね、私が驚かすと、皆呆れるんです」
「でしょうね」
「でもね、私が笑うと、皆笑ってくれるんです」
「でしょ……そう、なの?」
そうなんです、彼女がそう言う
その殴りたかった顔は、いつしか、今日の演奏会が終わったときの妹たちの顔に似ていた
すごく良い笑顔、私には長らくできていない顔
「私が笑えば、皆笑う、じゃあ私は、ずっとずっと、笑ってようって、思ってるんだ
貴方が暗い顔をしてたら、暗い顔をする人、増えるんじゃないかな?」
「……そう、ね」
「それじゃあね!」
「あ!貴方の名前は……」
彼女はそれだけ言って、どこかへ行ってしまった
名前くらい、教えてくれたって……私も教えてないか
でも、まさかあんな奴に諭されるなんて……私もまだまだね
よし!これからも精進しなくちゃ!
その次の日の演奏会
ルナサのヴァイオリンの音色は、今までとは比べ物にならないほど素晴らしい音色で
比べ物にならない笑顔だったと言う。