魂魄妖夢は考えた。
自分の剣伎には何が足りないのか、そしてそれは、何によって完成されるのか。
二刀を存分に操る妖夢は一刀においてもその技術に申し分は無い。
それでも、パズルのピースが一つ欠落したような、そんな違和感に苛まれていた。
三刀は試したが、何かが違う。六刀も試したが、それは刀の身のこなしではなかった。
一体何が足りないのか、妖夢は悩みに悩んだ末、相談する事を決意した。
自らの道を他人に委ねるという覚悟の末の選択。その答えは、あまりにもあっけなく返ってきた。
――魔法剣だ。
むらさきいろのあくまに囁かれて、妖夢は旅立った。
妖夢は、紅魔館を訊ねていた。
ここに住む七曜の魔女の元ならば、魔法剣の極意を掴めるのだと信じて。
「……魔法剣、ね。教えて欲しいと言う人は沢山居たけれど、誰一人として習得することは出来なかったものよ」
暗にその道の過酷さを告げて、パチュリーは妖夢に問う。
「貴方は、何処まで付いて来れるかしら?」
挑発気味にパチュリーが問う。
魔女の言葉に思わず一歩身を引く妖夢、圧し負けそうになる身体を叱咤して、拳を強く握り締めて目を閉じ、一歩を踏み返す。
「やります――私は、オーディンのざんてつけんなんかに負けません!」
妖夢の瞼の裏に、妖忌のガッツポーズが過ぎった。
to be continued!!
―――――――――――――――――以下おまけ―――――――――――――――――――――――
西行寺幽々子の命令で魂魄妖夢が紅魔館に出入りするようになって、一週間が過ぎようとしている。
「それでは、今日もよろしくお願いします」
この日もまた、朝から図書館に向かい、読書に勤しもうとしていた。
図書館の主のパチュリーは、珍しく騒がない来客を好意的に迎え入れ、お互いの邪魔をしないように約束していた。
「ええ、いつも通りこの中の本は自由に読んでいて良いわ。その代わりに本を傷めたり持ち出すのは厳禁」
「分かりました」
妖夢は一礼して、本棚の陰に消える。
既に図書館の構造を知り得ているらしく、その動きに迷いは無い。
その上真面目で勤勉、知識の吸収も早く、教える側のパチュリーの言葉にも素直で、教え甲斐が有るのだった。
「なるほど、咲夜に勝るとも劣らない従者ね、あの子」
この図書館に欲しいくらい、とパチュリーが呟くと、小悪魔がパチュリーのすぐ後ろで涙をぽろぽろ零していた。
「小悪魔。貴方は貴方で必要なのよ」
そうパチュリーが伝えると、小悪魔は途端に笑顔を取り戻して、嬉しそうに羽を揺らす。
そんな小動物的な仕草をする小悪魔の頭をなでて、パチュリーは早めのおやつを頼んだ。
いくら性格が真面目でも、身体能力でどうしても追いつかない所は有る。
妖夢は武に長けているが知はそこまででもなく、図書館の本は妖夢の頭には厳しい。
その為、こまめな休憩と糖分摂取をするようにと妖夢には告げてある、妖夢もそれに了承していた。
決して、パチュリー自信がおやつを食べたいからでは無いと、小悪魔には言い聞かせていた。
本を読み、分からない所を習い、ネズミを撃退し、また本を読む。
白玉楼を離れた妖夢の日常は、その繰り返しであった。
本を読むだけのパチュリーに比べればいささかバリエーションは有るのだが、妖夢の精神年齢からすれば、あまりにも寂しいものである。
「……あの子」
だからこそ、パチュリーは妖夢を特別に許していた。
話に寄れば、幽々子に言い付けられた本は、大した事のない雑学的なものばかりらしい。
その内容を考えてみても、妖夢の姿勢はあまりにも真面目過ぎた。
その姿を、かつてパチュリーは見た事が有った。
「はい、今日は砂糖多めのクッキーと紅茶です」
「ありがとう、小悪魔」
しばらくして、小悪魔がティーセットを3人分持って来て、机に置いた。
その足で妖夢の居る本棚の陰へと、お茶の誘いに向かう。
すぐに小悪魔は戻って来た。その傍らに、妖夢の姿は無かった
「パチュリー様」
呼ばれて、パチュリーは腰を上げる。
小悪魔に連れられて行った先に、妖夢は居た。正確には、眠っていた。
「……まぁ、ここの所毎日だったからね」
本を山の様に積み、膝の上に一冊を開いたまま、妖夢は本を背もたれにして眠りこけていた。
読んでいる途中で力尽きたのだろう、背もたれにしていた本は山を崩しかけており、妖夢の口元から涎が覗いている。
「小悪魔」
「はい。紅茶は後ほど淹れなおしますね」
そう言って小悪魔は机の方へと戻っていく。
「あらあら、ごめんなさいね」
妖夢の背中――本棚から、和装の少女が姿を現した。
「いつの間に来ていたの」
「何となく様子が気になったから、ね」
図書館の主に断りも無く侵入してきた亡霊少女、西行寺幽々子は、妖夢以上に暢気な笑顔で、パチュリーに手を振る。
「どういうつもりなの?役に立たない本を読ませたりするなんて」
パチュリーは積み上げられた本を指して、幽々子に問う。
雑学ばかりが内容の大半を占めている本の山を見て、幽々子は寂しげに口元を隠す。
「……やっぱり」
「やっぱり?」
「この子に自分で判断する様にさせようとしたのだけれど、この様子じゃ失敗ね」
幽々子は言う。
幽々子は、本当に何の意味も無い本を読むように、妖夢に言いつけていた。
そのことに気が付けば、妖夢の成長に繋がるだろう。しかし、妖夢は幽々子の命令に忠実だった。
何かを得ようとしているが、何も得られるものは無い。これでは、ただ幽々子の命令に盲目的に従っているだけだった。
「貴方の所のメイドが羨ましいわ」
「そう?貴方の所の従者も大したものよ」
「妖夢はまだまだ半人前よ。ここのメイドさんとは比べ物にならないわ」
「そうかしら。自分で考えすぎるのも困り者だけれど」
笑いあう二人。その間で、小悪魔が複雑な顔をしていた。
「さて、せっかくだから、私にそのクッキーをいただけないかしら」
「ええ、良いわよ。暖かいうちに食べて頂戴ね。それと、図書館の中では静かに」
「はーい」
幸せそうに眠り続ける妖夢にそっとケットを掛けて、二人はその場を後にした。
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