アダムとイブの前、神々の世代から常に世界のそばにいた。
一応、心理学上では男女間で起こる錯覚であると定義される。
何もかも捨てていいと思えるほどに燃え上がるのに、冷めるときは本当に一瞬で終わる。
数年の愛でも、たった一週間の恋でもそれは変わらない。
愛想が尽きる、とはこの国の古い人はいい言葉を残したものだと感心する。
まあ、男女の機微はともかくとして今は『恋と愛について』というわけがわからない課題に向き合わねばならない。
このマエリベリー・ハーン、教授ほど恋愛に夢を持っていないのだ。
「おっすメリー。課題?」
「ええ、そうよ。今週の教授はいささかロマンチストだったみたい」
「ふーん。恋と愛の違い、ねえ」
蓮子は、課題が記されたA4のプリントを興味なさそうに眺める。
そして、机の上にぽいと放り投げた。
内容も覚えているし、捨てたとしても文句はないがそれはないだろう。
小言の一つでも言ってやろうと思ったが、蓮子の表情を見るにその気は失せてしまった。
「でさ、また怪しい場所の情報を仕入れてきたわけよ」
「情報源は?」
「ざん!」
蓮子がジャケットの裏ポケット取り出したる茶封筒。
その中には、数枚の心霊写真とオカルト研の分析レポートなるものが入っていた。
ご丁寧に、鑑定書っぽい体裁をとってある。
何の価値があるのかはさっぱり。
「ね、オカルトが言うには見たことがない雰囲気だっていうのよ。もしかしたら、向こう側の空気がこっちに漏れてるのかもしれないわ!」
確かに、何がとは言えないがよく見る心霊写真とは何かが違う。
雰囲気が、夢で見た竹林にそっくりなのだ。
もうあの夢を見たのは随分と前の話なのだが、今でも鮮明に思い出せる。
「確かに、普通とは違うわ。あながちウソでもないのかもね」
「でっしょ?! 近所の墓地とか霊園に忍び込むよりはマシだと思うのよね!」
少年のように、蓮子は目を輝かせた。
目の前にある目的だけに集中して、迷惑とか危険とかそういうことを埒外に放り投げた時はいつもこうだ。
よほど、未知の世界に恋焦がれているのだろう。
一方で、私はさほど未知の世界には興味がない。
むしろ、この眼とオカルトに恨みさえ持っている。
自分でも、気持ち悪く思うくらいに。
そんな私が、なぜ秘封倶楽部を辞することなく振り回され続けているか。
私が、秘封倶楽部に属する理由。
それは、至極簡単なたった一つの答え。
向こう側に恋焦がれている蓮子が、私は好きだからだ。
自分が存在している価値を、この瞬間だけは信じていられる。
たった、それだけのこと。
「じゃ、早速行きましょう!」
「ちょっとちょっと、もう日も暮れるから今日は準備だけにしましょう?」
教室から慌しく連れ去られる私は、課題の答えを蓮子を見て一つ思いついた。
「その二つに違いはなく、共有する感情の深度の違いである」
「何それ?」
「レポートの結論よ」
さぁ、今日も私たちの