「勇儀姉さん! よぁしゃーっす!!(よろしくお願いします)」
「おう!! かかってきな!!」
星熊勇儀は一吠えして、半歩足を引き、拳を構える。
対峙する若い鬼は、須弥山に匹敵する強大なプレッシャーに押しつぶされそうになりながらも、歯を食いしばって堪えていた。
二人は今、橋の上で決闘の真っ最中である。
旧都にいる鬼はいずれも血気盛んであり、今回のように、力の象徴である勇儀に挑戦する輩は後を絶たない。
しかし、実はこの若い鬼の目的は、彼女に勝利することではなく、なんと愛の告白なのであった。
たくましい二の腕、むっちりした太もも、何より体操服という様々な要素に惚れ込んでいたのだ。
だが思いを伝えるには、あまりにも大きすぎる問題がそこに横たわっていた。
勇儀には色恋沙汰に関する話が、全く通じないのである。
彼女にとって恋とは広島カープであり、愛とは卓球少女であり、ラヴとはラブラドール・レトリバーを意味するのだ。
日本語四級、肉体言語十段の格闘派に、尋常な告白は通用しない。
ゆえに、若い鬼は決闘という手段を用いた。
鬼は拳で語るもの。
すなわち、愛の告白として、これ以上ふさわしいものはないだろう。
自分のあふれんばかりの思いを、熱き拳に託し、彼女に真っ直ぐぶつければ、あるいは。
「はぁー!!」
ドゴン、という若い鬼の渾身の直突き。
勇儀はまさしく四天王の名に恥じない動きで――すなわち、その一撃を正面から受け止めていた。
びくともしない腹筋に、拳を当てた状態で、鬼は訴える。
「どうでしょう姐さん……わっしの気持ち、受け取ってくれやしたか」
「…………ふっ」
勇儀は爽やかに笑った。
「『まさかの知性派登場で、四天王の脳筋ポジに成り下がりましたね』だとぉ!? 大きなお世話だ!!」
「ぎょえー!! やっぱりね!!」
ドッゴーン。と、全く言葉が通じなかったことに涙しつつ、鬼はきりもみで吹っ飛んだ。
アッパーモーションで止まる勇儀。
だが彼女は突然、ほのかに染まった頬に手を当て、いやいやをしたのである。
「けど私は……お前のそんなストレートなところが好きなのさ」
「まさかの大成功!!」
大の字になっていた鬼は、有頂天になって復活し、喜んだ。
こうして彼の片思いは成就した。
まさか成功すると思っていなかったパルスィは、橋の下で親指を噛みつつ、右の拳を鍛えていた。