「ねぇ、メリー」
「なに?」
「服を買いに行くって話だったよね」
「そうね」
それがどうしたの? というような表情をするメリー。
蓮子はため息を吐く。
「でもね、メリー」
「なによ、蓮子。さっきから」
「寝間着って服なのかしら?」
「寝間着じゃなくてパジャマよ」
「どっちでもいいじゃない」
「よくないわ。和服と洋服くらい違う」
妙なこだわりを見せるメリー。
蓮子はため息を吐く。
「だけど、私のイメージとは違ったのよ」
「なんで?」
「だって、普通『服を買いに行こう』って誘われたらさ」
「うん」
「パジャマを選ぶんだとは思わないじゃない?」
「蓮子は興味ないの? 私のパジャマ」
「そういう問題じゃないよ」
「ふふっ、興味はあるのね」
なぜか得意げな顔をするメリー。
蓮子はため息を吐く。
「それで、蓮子はどれがいいと思う?」
「……そうね、メリーに似合うのは、このヴァイオレットのかしら」
「蓮子にはインディゴが似合うと思うわ」
「私のパジャマの話はしてないじゃない」
「ええっ、せっかくだからお揃いのデザインで買いましょ?」
「なんでよ」
「一緒に寝る時にいいじゃないの」
「意味がわからない」
両手でそれぞれのパジャマを持ち、見比べるメリー。
蓮子はため息を吐く。
「パジャマより、もっと何か別のものを揃えたいわ。どうせなら」
「うーん……そうだ。いいこと思い付いちゃったわ」
「正直、嫌な予感しかしないけれど」
「今日の蓮子は意地悪だね」
「メリーのせいだと思うわ、概ね」
「まあまあ。それより、制服を作るのはどう?」
「ずいぶん唐突だけど、どういうこと?」
「秘封倶楽部の制服よ! サークルTシャツとかそういうノリで」
「ああ、揃えるってそういうこと……」
「ね、ね? いい考えだと思わない?」
得意げな顔を通り越してドヤ顔をするメリー。
蓮子はため息を吐く。
「あのね、メリー」
「なによ」
「制服ってさ、どういうものだっけ?」
「えっと、ある一定の集団や組織の所属者が着用することを目的に規定された服のこと」
「辞書的な説明をありがとう。で、秘封倶楽部のメンバーは何人?」
「私と蓮子と蓮子と私。計2名」
「うん、そうだね。それで制服作るとするじゃない。そしたらどうなる?」
「私と蓮子が同じ服を着ることになるわ」
「ええ。私とメリーだけがね」
何が言いたいのか、とばかりに首を傾げるメリー。
蓮子はため息を吐く。
「つまりさ――それ、単なるペアルックじゃん」
「盲点だったわ」
「いや、あんた絶対それ狙ってたよね?」
「蓮子はそんなにイヤなの? 私とのペアルック」
「噂とかされると、恥ずかしいし……」
「そんなことないわ。だってもう私たち、公認の仲じゃない」
「公認って何!?」
「まあ、そんなわけだからお揃いで何かを選びましょ」
「どんなわけよ」
嬉々として店の別のコーナーへ歩きかけるメリー。
蓮子はため息を吐く。
「ああ、わかった。わかったわよ」
「わかってくれた?」
「こうしましょう。メリーが手に持ってるそのパジャマ。ヴァイオレットとインディゴ」
「ええ」
「それを買います」
「ふんふん」
「お揃いのパジャマよね」
「そうね。蓮子とお揃い」
「それが秘封倶楽部の制服ってことで」
「ええ、それが制……って、ええ!?」
驚愕するメリー。
蓮子はため息を吐く。
「ペアルックで出歩くのは勘弁願いたいけど、パジャマくらいならいいわ」
「あ、そういうこと」
「それに、最近、あんた夢見がちじゃない。二つの意味で」
「ドヤ顔も素敵よ、蓮子」
「ありがとう。まあ、そんなわけだから、あんたの夢を活動の切っ掛けとするなら――」
「パジャマが制服でもおかしくない、かしら?」
「そーいうこと」
それを聞き、微笑むメリー。
蓮子も笑う。
「というわけで、帰りにいつもの喫茶店寄ってくわよ。どうせまた見たんでしょ、夢」
「あら、よくわかったわねぇ」
「メリーから買い物に誘って来たんだもの。他にも用件があることくらいわかるわ」
「さすがは蓮子ね。愛しているわ」
「はいはい。じゃ、さっさとそのパジャマ買ってきなさいよ」
「えっ、蓮子の分は蓮子が払うのよ」
「買い物に付き合って上げたんだからそれくらいいじゃないの! さあ、先行くわよ」
「ええっ! ちょっと蓮子ぉ! ……ああ、もう」
笑顔で駆け出す蓮子。
メリーはため息を吐いた。