「……どうしたのよ、勇儀。何かのギャグ?」
「酷いな、知的さが加わってより良い女になってるだろう?」
星熊勇儀という鬼とそこで合うということを、私は一切想定しては居なかった。
この力バカで何でもかんでも腕力で解決しようとする大鬼が、まさか古本屋に居るだなんて。
この旧地獄で唯一の、ゴミ捨て場みたいな古本屋。
静かで、見捨てられたこの旧地獄で更に忘れ去られたようなこの場所にまで、この旧地獄の賑やかさの半分くらいを受けもったような女が侵食してくるなんて!
三日ほど前はせっかく落ち着ける場所を見つけたと思ったのに、がっかりしてしまった。
勇儀め、銀縁眼鏡なんて似合わないものまでかけて、まるで別人みたい。
無駄に頭が良さそうに見えるのが妬ましいわ。
勇儀はしばし本棚を物色すると、分厚い和綴じの本を選んで無愛想な店主に差し出した。
店主は実につまらなさそうに一緒に差し出された小銭を机の棚に突っ込むと、つっけんとんに本を投げ渡した。
勇儀はそれを受け取ると、私に「じゃあね」と挨拶して店から出ていってしまった。
「……待ちなさいよ」
私は店主に投げつけるように小銭を渡し、目当ての本を握って駈け出した。
勇儀はすぐに見つかった。あいつの長身は旧地獄の表街道でもすぐ見つけられる。
この前は釣り合う身長の男が居ないのが目下の悩みだとカラカラ笑っていた。
無論、その言動は言うまでもなく妬ましい。
「おお、パルスィ。お前さんは何買ったんだい?」
勇儀はこちらに気づくと手元の本から顔を上げた。
眼鏡をかけたその顔は、なんだか別人のようだ。
「古明地さとりの小説よ。数が出てない奴だから探すのに苦労しててね。
…………あんたは?」
「これは……歴史の本だな」
歴史と来た。この享楽的な鬼に過去とか未来を認識するだけの近くがあったというのは驚きである。
「京都の辺りの、鎌倉時代の日記なのさ。
地域の人の出入りとか、変わった出来事を記してあるようなんだ」
また地味な。なんでそんなものを。
いや、待て。京都、鎌倉時代…………それは、こいつが退治された頃の、退治された辺りの話じゃないだろうか。
「人間に紛れたか、何かの怪異を残して能力で逃げたか……首を落とされた萃香だって生きてたんだ。
あいつらだってきっと、どうにかして落ち延びてるはずだ。それを誰かが、見ていたかも……」
勇儀が見たこともない顔をしていた。寂しそうな、縋るような……切なそうな。
眼鏡と合わせて、その顔はまるで別人で。
カッ、と頭が熱くなった。
お前は誰だ。そんな顔をした鬼を私は知らない。
そんな表情は私は知らない。
普段から無駄に私にくっついてチョッカイを出すくせに、一度も見せたことのないような顔を。
あんたは、誰かに、そんな顔を、私の知らない顔を見せたことがあるのか。
衝動的に、手が伸びた。
勇儀の顔を掴んで、眼鏡を顔からむしり取る。
「っとっとっ?! と、突然なんだいパルスィよ」
突然なんだ、だと?
それはこちらの台詞だ。
「突然別の顔をするな。突然他人になるな。突然知らない人間に向ける顔をするな。
――――――妬ましすぎて、吐気がするわ」
勇儀はしばらくきょとんとした顔で、しかし急にニカリと笑う。
それは私のよく知る、星熊勇儀の顔だった。
「悪かったよ、昔の友達を探すのもいいが、パルスィとあってる最中なら今の友達との時間を大切にしなくっちゃあ、ね」
地底の鬼のくせに太陽みたいにニカッと笑うと、勇儀か私の肩を抱くようにして歩き出す。
「ちょっ、何するのよ」
「妬まれないようにらしく行こう、今日は飲むぞー!」
ああ、どうやら余計なことを言ったらしい。
しかしながら……妬みすぎは少しばかり疲れるので、これはこれで、いいか。
『昔の友達』 這い寄る妖怪氏 30分~37分ごろまで
這い寄る妖怪(参加) (2012-11-28 23:30:02)
よろしくお願いします
I・B@司会 (2012-11-28 23:30:06)
どうぞー
みかん (2012-11-28 23:30:27)
この作品は
みかん (2012-11-28 23:30:50)
あまり,お題だから古本屋と眼鏡を入れた,という感じがしないのがよいですね。
ぴす (2012-11-28 23:31:38)
、、、うむぅ
のんc (2012-11-28 23:31:44)
下から九、十行目の改行が気になってしまった
みかん (2012-11-28 23:32:10)
セリフのところ?
這い寄る妖怪(参加) (2012-11-28 23:32:29)
その辺急いでたから崩れてるかも。
のんc (2012-11-28 23:32:33)
そうです。「」内で改行してるのが違和感あるってのは駄目なのかな
這い寄る妖怪(参加) (2012-11-28 23:32:53)
そっちか。
I・B@司会 (2012-11-28 23:33:03)
話が纏まってる印象。
みかん (2012-11-28 23:33:47)
括弧内での改行は,技法としてはあり得るわけですが,その技法の有無ではなく,使われ方が,という引っ掛かりでしょうか。
ぴす (2012-11-28 23:33:49)
ただまあ、メガネと古本屋を薄目にしてストーリーを重視した感じですかね
のんc (2012-11-28 23:34:31)
アクセントというかきっかけだから、そんなに薄い感じはしなkったような……(個人的な意見
みかん (2012-11-28 23:34:58)
雰囲気を高めるガジェットとして用いられているように思えますね。
ぴす (2012-11-28 23:35:04)
私は…… を使ったらごちゃごちゃしそうだなと思った時に
ぴす (2012-11-28 23:35:22)
わざと改行します。カッコ内でも
ぴす (2012-11-28 23:35:46)
でもまあ、ゆうぎメガネというのは意外だったけど
這い寄る妖怪(参加) (2012-11-28 23:36:11)
左右と上下の視線移動が多いと疲れるから、短めで改行するようにしてる。
のんc (2012-11-28 23:36:20)
ほうほう
這い寄る妖怪(参加) (2012-11-28 23:36:24)
私の眼鏡スタンスはギャップ萌え
みかん (2012-11-28 23:36:36)
自己解説来た! これは期待
のんc (2012-11-28 23:36:59)
読んでて思ったのは妬ましいって独特な感情だなぁって(照
みかん (2012-11-28 23:37:33)
頭で書いている感じがしましたー。
這い寄る妖怪(参加) (2012-11-28 23:38:12)
頭で書かずにどこで書けと。
みかん (2012-11-28 23:38:17)
手。
這い寄る妖怪(参加) (2012-11-28 23:39:00)
前は発想について「一種の手癖」と言われた気がする。
みかん (2012-11-28 23:39:23)
面白いですね。頭なのに手癖だとは。
ぴす (2012-11-28 23:39:25)
いっぱい書いてるとあれですよね、文書の流れが癖になるから、考えてるのか手がかってにやってるのかわかんなくなるときがあるよね(ハイな気分
I・B@司会 (2012-11-28 23:39:28)
ではそろそろ
這い寄る妖怪(参加) (2012-11-28 23:39:37)
ありがとうございました~