「とりあえず今の状況を整理しようか」
私は誰もいない寺子屋で自分に起こるこの『異変』を考えていた。
今夜は満月、つまり私がワーハクタクに変身する夜である。
今日という日は私の能力を総動員して月に一度の大仕事しなければならない。
だが、秋のこの夜。今日という日はいつもと違う状況だった。
「こんな天気だとこうなるのか……」
今日は斑の鰯雲。雲は切れ間を大量に生み、空を交互に流れている。
つまり今日の満月は雲に隠れては現れるという奇っ怪な状況になっている。
満月の光を浴びることで私はワーハクタクに変身できるわけだが……。
斑に差込む月光に、私の姿は同じく奇っ怪なモノになっていた。
片方だけに角を生やし、髪の色は混ざり合い、服の色まで混ざっている。
入り込んでくる光の加減で私の姿は刻々と変化し、一定の形を成していない。
変身する時のなんとなく感じるこそばゆい感覚が全身を走り続けている。
「うぅ……いつもならすぐ終わるからなんとも思わないが……」
角が生えると頭の方が撫でられたようにふわりとして。
髪の色が変わっていくと指をゆっくり滑らすようなくすぐったい感覚がして。
体が半妖に、ハクタクに変わり変わることで全身をなんともいえない触感が走る。
いやなら窓を閉めてしまえ、という話なんだが、腕の長さまで伸縮し続けるため、うまく動けないでいる。
窓の下でうずくまるようにして完全に月が隠れるか、現れるかを今か今かと待ち続けている。
全身にはくすぐったい感触が流れ続けて、私は小さく体を丸め、声を留める。
まだまだ鰯雲は終わる気配はない。
くすぐったい感触は結局最後まで終わらなかった。
次の日、寺子屋で私がうずくまり、微かな声を出して喘いでいた等という記事が飛び交ったが、
その天狗には次の満月を見ることを許す気はない。