命蓮寺の朝は、早い。
日が登り始めるよりも早く門弟達は起きだし身の回りの支度を済ませる。
当番は直ぐ様朝食の支度を始め、それ以外の者達はそれぞれ定められた場所の朝の掃除にとりかかる。
それらはおおよそ太陽が山々の影から完全に姿を表した頃には終わり、朝食の時間となる。
命蓮寺の外に居を構えるナズーリンが顔を出すのは、おおよそこのタイミングである。
差し迫った用事がなければ殆ど毎日顔を出していて、一度ならず寺の者達に「もうこっちに住んだら?」と提案されている身の上だ。
しかしナズーリンはこれを固辞する。
彼女にとって毘沙門天という神と、寅丸 星及び聖白蓮という上司は“尊敬”し“仕える”ものではあっても“信仰”と言う感情はどうにも抱けない。
教えだとか、ご利益だとか、そういったものを信じ切れないのだ。個人として彼女らと親しいが故に信仰を向ける存在として意識できないのであろう。
そんな自分が居ては、真面目に仏の教えを信ずる門弟たちに宜しくないとの考えから、彼女は今も命蓮寺の外に住んでいる。
……断じて面倒なお勤めをサボるためではない。断じて。
閑話休題。
ナズーリンが顔を出す時間は朝食の直前。
しかしながら、この寺では朝食の前にこなさねばならないスケジュールがひとつ、ある。
「おーす、ナズ。今日は新人が三人ばかり居るから、そっち頼むわ」
境内で大きな碇をぶんぶん振り回す村紗に軽く挨拶してから、ナズーリンは寺の裏手に回る。
そこそこ広い空き地には、小さな妖怪の少年少女が三人、ナズーリンを待っていた。
「君等が新しい門弟かい? 私はナズーリン、毘沙門天の使いをやらせてもらっている。
……朝食も近いな、じゃあさっさと“朝の体操”を始めようか」
ナズーリンはニヤリと笑うとL字に折れ曲がった大きな大きなダウジングロッドを手の中でくるりと回す。
ふいに両腕を持ち上げたその構えは、琉球拳法のものだ。
「乱取り稽古だ、好きな順番にかかってくるといい」
命蓮寺の門弟には妖怪が多い。およそ人を襲うことを止めたものか止めたい者が殆どなのだが、これがなかなか本能に抗いがたいらしく、ストレスを貯めこむものも多かった。
弾幕ごっこで気晴らしをするのがこの幻想郷の定石ではあったが、あまり頻度が増えると人数が多いだけに周りの迷惑になりかねない。
故に、聖は“朝の体操”と称した組手稽古をスケジュールに組み込んだのである。もともと武闘派妖怪も多く、壊す方法の習得は壊さない方法の習得に繋がると考えたからだ。
主な指導は村紗、一輪、そしてナズーリンが担当していた。
少年妖怪たちは、構えたナズーリンを見て戸惑った。
背丈だけを見れば彼らよりナズーリンは小さい。腕も細く、身体は軽そう。
「おいおい。武術の真似事なら妖怪の常識は捨てたほうがいい」
ナズーリンはそう言って三人のうちの1人に無造作に近寄ると、
「筋力や体格だけでは決まらないから武術は楽しいぞ?」
右手のロッドがトンファーと化して、1人の喉元に捻り込まれた。
疾風のような速さの打ち込みは、しかしその喉を潰す寸前にピタリと止まる。
もとより鉱物の妖怪であろうその少年の喉はロッドでは潰せないしそんなことをするつもりはない。
驚きに硬直した少年の足を払って転ばせる。
目を丸くしたまま彼は地面に優しく倒れこまされた。
はっと驚いた二人目の妖怪が、掴みかかろうと飛びかかってくる。
ナズーリンは小さく笑ってただ、しゃがんだ。
しゃがんだナズーリンの肩に足を引っ掛けてしまって二人目が転ぶ。
その刹那、残った1人の少女妖怪がしゃがみこんだナズーリンの無防備な背中に迫った。
そういう隙が出来るのを待っていたらしい。
「狙いはよし。だがこれでも毘沙門天の弟子でね」
すっくと立ち上がる勢いを腕に乗せ、掌底。氏突っ込んできた少女の肩を優しく押すと、それで彼女は転んでしまった。
「はい、オシマイだ。どうだい?」
三人はしばらく転んだままきょとんとしていたが、自分がされたことに気づくと驚いた顔になった。
小さくて、自分より弱そうな妖怪の意外な強さに凄い凄いと声が出る。
当然だろうと胸を張りながらも、そのナズーリンの笑顔にははにかみの色が浮かんでいた。
「朝の体操」 這い寄る妖怪氏
這い寄る妖怪(参加) (2013-03-09 23:54:34)
よろしくお願いします
aho(見学) (2013-03-09 23:54:49)
一転クールなナズがきた
かじつ(参加) (2013-03-09 23:55:40)
これはトンファーナズーを書きたかったんだろうか
かぼちゃ(参加) (2013-03-09 23:55:46)
内容的にはまとまりがあると思いました。褒められたナズーリンを含めて
ライア@参加 (2013-03-09 23:55:48)
最後のはにかんだ、というのは褒められてうれしい感じかー
這い寄る妖怪(参加) (2013-03-09 23:55:57)
もうちょっと組手の内容書きたかった。
つくね@鈴(参加) (2013-03-09 23:56:27)
この時間でこれ以上書くのも難しいような。
Ministery(見学) (2013-03-09 23:56:36)
強いナズってなんか・・・イイよね・・・
かぼちゃ(参加) (2013-03-09 23:56:37)
ただ、武術の達人ってのが出てくるにはもう少し説明が欲しいかもしれません、原作で特にそうあるわけでもないので
白衣(参加) (2013-03-09 23:56:40)
しかし閑話休題が本当に閑話休題ですね。これを抜いていれば書けた?
かじつ(参加) (2013-03-09 23:57:10)
確かに閑話休題が。
這い寄る妖怪(参加) (2013-03-09 23:57:13)
どうだろう。ノリ的にはここを抜かして書ける気はしない。
かぼちゃ(参加) (2013-03-09 23:57:16)
弾幕ごっこより武術というのももう少し理由が欲しいかも。原作がそれありきな以上
百円玉(参加) (2013-03-09 23:57:35)
閑話休題より以前は無くても?
Ministery(見学) (2013-03-09 23:57:40)
説明は別になくてもいいと思ったけれどなあ
Ministery(見学) (2013-03-09 23:57:46)
この長さなら
かぼちゃ(参加) (2013-03-09 23:57:49)
黄昏でも弾幕前提ですからね
K.M(参加) (2013-03-09 23:57:51)
弾幕より周囲に被害が出ないって事かと(近所迷惑避けるための乱取り
這い寄る妖怪(参加) (2013-03-09 23:58:19)
>あまり頻度が増えると人数が多いだけに周りの迷惑になりかねない。
這い寄る妖怪(参加) (2013-03-09 23:58:31)
>壊す方法の習得は壊さない方法の習得に繋がると考えたからだ。
白衣(参加) (2013-03-09 23:58:53)
信仰云々は後で出てくるのかなぁ、と思ったらさっくりとスルーだったので、ここ抜いて書きたい組手に全力で取り組んでもよかったのでは、と。
這い寄る妖怪(参加) (2013-03-09 23:58:59)
この二つの理由が先に立ったんで武術だった。
かじつ(参加) (2013-03-09 23:59:32)
組手はいいとして,その担当がどうしてナズーリンなのかということは思ったな。
かぼちゃ(参加) (2013-03-09 23:59:35)
心綺楼でも一輪さんが参戦するわけで、ちょっと原作から見てどうかとは思いました
Ministery(見学) (2013-03-09 23:59:43)
そこらへんは朝の(少し変わった)体操ということで強引に進めてもよかったように思う
かじつ(参加) (2013-03-09 23:59:46)
向き不向きで言えばあんまりナズーリンは肉弾戦向きではないイメージ。
かぼちゃ(参加) (2013-03-09 23:59:59)
内容はいいんですが、もう少しフォローが欲しいかなと、ナズーリンの武術も含めて
かじつ(参加) (2013-03-10 00:00:10)
全員が持ち回りで担当して,たまたまその日はナズーだった,とかならまだわかるのだけど。
かぼちゃ(参加) (2013-03-10 00:00:19)
これだと一輪では駄目なのか? はあります
K.M(参加) (2013-03-10 00:00:27)
聖さんは肉体強化得意だけど、地位的に無いかな?
這い寄る妖怪(参加) (2013-03-10 00:00:28)
多分肉弾戦弱いよ。もうちょっと強い妖怪だと「武が通じないッッッ」ってなる程度
K.M(参加) (2013-03-10 00:01:05)
となると村紗と一輪と星とナズになるわけで、か
這い寄る妖怪(参加) (2013-03-10 00:01:10)
弱者が強者に対抗できるから武「術」なのではないかと。
白衣(参加) (2013-03-10 00:01:24)
なんかむしろそっちが読みたくなってきた。「武が通じないッッッ」
這い寄る妖怪(参加) (2013-03-10 00:01:43)
一輪さん割と喧嘩強そうじゃないですか。村紗も。
Ministery(見学) (2013-03-10 00:01:44)
(強者がさらに強くなるのも武術だよね
かぼちゃ(参加) (2013-03-10 00:02:04)
そこは人それぞれのイメージですかね
かぼちゃ(参加) (2013-03-10 00:02:25)
ナズーリンが弱いとすれば、それを示す描写は盛り込む余地はあるかと
K.M(参加) (2013-03-10 00:02:30)
何やら刃牙の気配が
這い寄る妖怪(参加) (2013-03-10 00:02:31)
ロリショタを更にちっこいナズが軽々相手を転ばすところがね、萌える。
百円玉(参加) (2013-03-10 00:02:51)
組手相手が妖怪の少年少女じゃなくてもっと大きな妖怪だったらナズーのすごさ浮き立つと思ったけど
百円玉(参加) (2013-03-10 00:03:13)
それらが素直にナズーを褒めるかどうか疑問
白衣(参加) (2013-03-10 00:03:32)
強者同士の争いじゃない、まさに朝の体操ですか。
つくね@鈴(参加) (2013-03-10 00:03:34)
勇儀とかなら褒めそうだけどねぇ
這い寄る妖怪(参加) (2013-03-10 00:04:04)
組手したらミンチになりかねない相手はちょっと…w
かじつ(参加) (2013-03-10 00:04:44)
この場合相手を強者にするとなんか違う気もするから,それについてはこれでいいと思う。
Ministery(見学) (2013-03-10 00:05:40)
謙虚とドヤァの境界
K.M(参加) (2013-03-10 00:06:21)
>掌底。氏突っ込んできた しつっこんできた?
這い寄る妖怪(参加) (2013-03-10 00:06:30)
あ、誤字です
K.M(参加) (2013-03-10 00:06:39)
でしたか、失礼しました。
白衣(参加) (2013-03-10 00:07:34)
おおかた出尽くしました?
かぼちゃ(参加) (2013-03-10 00:07:52)
肉弾戦に弱いを言外にアピールするなら、妖怪でなくて人間の少年でもよいのでしょうか?
かぼちゃ(参加) (2013-03-10 00:08:27)
妖怪なら(見た目の)年齢と力は無関係ですし
這い寄る妖怪(参加) (2013-03-10 00:09:17)
妖怪って「強いのが問答無用で強い」っぽいじゃないですか。
K.M(参加) (2013-03-10 00:09:26)
ふむふむ
這い寄る妖怪(参加) (2013-03-10 00:10:13)
同じ妖怪の方が「ちっこくて弱そう」の判断にある程度得心が行くかな、と。
這い寄る妖怪(参加) (2013-03-10 00:10:37)
種族が違うと根本的な力量差を想像しづらくなるでしょう?
かじつ(参加) (2013-03-10 00:10:51)
人間の少年だったら,ナズーリンが多少強くても「まあ妖怪だからね」ってなりそうだからなあ。
かぼちゃ(参加) (2013-03-10 00:10:55)
(十五分経ちましたがまだ続くなら)
K.M(参加) (2013-03-10 00:11:07)
なるほど、それは確かに……と、リミットでしたか
かぼちゃ(参加) (2013-03-10 00:11:38)
私は種族差で想像しにくいは弱いかも
かぼちゃ(参加) (2013-03-10 00:12:17)
ナズーリン弱さを出す、あるいは種族の差による想像は書く余地があるかも
這い寄る妖怪(参加) (2013-03-10 00:12:23)
技でちょっと秀でてるだけってレベルを書くなら人間相手はないかな、とは。
かぼちゃ(参加) (2013-03-10 00:12:23)
冗長さにもなりかねませんが
這い寄る妖怪(参加) (2013-03-10 00:12:59)
同じ土俵だから技量勝ちである程度飲み込んでもらえるかなーと。
かぼちゃ(参加) (2013-03-10 00:13:42)
技量に勝っていることはこれで示せると思います
かぼちゃ(参加) (2013-03-10 00:14:12)
他はありますかね
Ministery(見学) (2013-03-10 00:14:15)
(なんなら妖怪と人間の両方出せばよいのではないか? 命蓮寺だし
這い寄る妖怪(参加) (2013-03-10 00:14:40)
時間があればその方向だったかも……
K.M(参加) (2013-03-10 00:14:47)
(人間妖怪連合軍とな
かぼちゃ(参加) (2013-03-10 00:14:54)
では次へ
這い寄る妖怪(参加) (2013-03-10 00:15:01)
ありがとうございましたー