月明かりも届かない暗闇の中に、ガサガサと葉を踏み漁る音が響く。
「そうね……この辺りにしましょうか、永琳」
生い茂る竹林の中、蓬莱山輝夜は両手を広げ、楽しそうに周囲を見渡した。
一寸先も見えない様な所だというのに、輝夜はこれ以上無いほどに楽しげだ。
「分かりました。それでは、この辺りを少し広げましょうか」
そう落ち着いた様子で永琳が応えると、おもむろに右手を上へとかざす。
とたん、炎の様な光が勢い良く広がり、次の瞬間には、竹林に広い更地が出来上がっていた。
「流石ね、永琳は」
「ここからですよ。これから二人で生活する為の家を建てなければいけないもの」
まるで今行った事が朝飯前であるかのごとく、先の事を楽しそうに話し合った。
「誰?」
そこに、別の声が割って入った。
途端、それまでの温かな雰囲気は鳴りを潜め、二人は周囲を警戒し始める。
その第三者の声に覇気は無く、微かに怯えているかの様な、弱々しささえ感じられる。
声の聞こえた方を睨み、永琳は片手に弓を取り、じりじりと距離を詰める。
「そこに誰か居るの?」
一声、誰も居ない竹林の方へと放つ。
その少し後に、ガサガサと葉を踏み潰す音が段々と近付いてきて、やがて竹の間からその姿を覗かせた。
「――女の子?」
輝夜は、思わず口に出していた。
歳の頃は十つ程か、髪は黒く肩までかかり、白い装束に黒の袴を穿いている少女だった。
永琳と輝夜の姿を見て、少女は勢い良く駆け出して、数歩進んだ先で転んでしまった。
その無防備な姿に向けて、永琳の弓は矢をつがえ、じっと狙いを定めている。
「待って、永琳」
それを、慌てて輝夜が制止した。
「どうしてです、輝夜? 私達の事を見たからには――」
「あの子、酷い怪我をしてるじゃない。治してあげましょうよ」
あっけらかんと言う輝夜に小さくため息を吐いて、永琳は弓を下げる。
そして少女の所へ近付き、伏せたままの身体を助け起こした。
「これは……結構手酷くやられてますね」
永琳は周囲を見渡し、何か薬になりそうな物は無いかと探し始めた。
永琳は見繕った草木や根を磨り潰して薬にし、少女の衣服の端を裂いて傷口に巻き、簡単な手当てを済ませた。
それで大分良くなったのだろうか、少女は少し笑顔を取り戻している。
「ありがとうございます、お蔭で助かりました」
少女は永琳に深く頭を下げる。その背中には、黒い一対の小さな羽が生え、布に巻かれていた。
「ねえ、貴女の名前は?」
輝夜が少女に向かって、優しく訊ねた。
「はい、私は鴉天狗の射命丸文と言います。そこの寺の人間にやられて動けなかった所に、貴女方が通りかかってくれたんです」
文と名乗った少女は、輝夜達を疑いもせず正直にそう答えた。
「貴女、妖怪だったのね……道理でこんな所に」
鴉天狗という聞き覚えの有る言葉に、輝夜はようやく合点がいったようだ。
「おかげで助かりました、このお礼は後日必ず」
そう言って振り向いた文に、永琳は声をかける。
「ああ、ちょっと待って頂戴」
「え、何でしょう――!」
振り向く文の首筋に、永琳は矢じりを向けていた。
「永琳、駄目よ」
「……」
矢じりは文の喉に、殆ど触れる所まで近付いている。
その間、文は、じっと永琳を見つめていた。
「……私達の事はすぐに忘れなさい。そして、誰にも口外しない事。それを約束してくれるかしら」
一瞬前とは正反対の、確かな殺意を向けられて、文は竦み上がる。
「は、い……」
文は三度頷いてその事を誓い、崩れそうになった足でよたよたと竹林の中へと戻って行った。
「ごめんなさいね、永琳。損な役回りばかり押し付けてしまって」
「良いんです、これは私が決めた事ですから」
永琳は、矢をしまって輝夜の所へ戻って行く。
「恐らく、もう二三人は居るかもしれないわね」
「出来れば友好的に解決したいのですけどね――今後の為にも」
そうして二人は、また竹林に向かって歩き始めた。
月の灯りに照らされる二人の姿は、月の民の返り血に染まっていた。
ライア氏 『月に染まって』
I・B@司会(参加) (2013-05-02 23:50:03)
どん!
I・B@司会(参加) (2013-05-02 23:50:08)
58分まで
Ministery@参加 (2013-05-02 23:50:30)
因果関係がわからない
かじつ@見てる感じ (2013-05-02 23:50:33)
ラストだから厳しめに言ったほうがいいのかな。
U.N.owen(参加) (2013-05-02 23:50:40)
(遊戯王のせいで邪推してしまう……!
見てる人@見学 (2013-05-02 23:50:49)
これはいい感じに思いました。
Ministery@参加 (2013-05-02 23:50:59)
優しさ(隠喩
ライア(参加) (2013-05-02 23:51:16)
文ちゃんの出し方というか、全くストーリーに関わってない不具合がですね
見てる人@見学 (2013-05-02 23:51:44)
これは、やっぱりよくわからなかったのですけれども、文が月の使者に攻撃されて怪我したのでしょうか?
多々良希美(さんか) (2013-05-02 23:51:48)
なんだか、イルミネーションは凄いけどツリーの幹が無い感じ
生煮え(参加 (2013-05-02 23:51:57)
違和感があったのは、文がらしくないかなぁと
I・B@司会(参加) (2013-05-02 23:52:02)
人間に、とあるので、退魔の方?
かじつ@見てる感じ (2013-05-02 23:52:11)
私が思ったのは
生煮え(参加 (2013-05-02 23:52:12)
読みながらぬえかと思いました
這い寄る妖怪(参加) (2013-05-02 23:52:17)
あややは完全に別口と読める
かじつ@見てる感じ (2013-05-02 23:52:32)
年代的に若くても不思議ではないので,こういう出会いもありなのかなと。
ライア(参加) (2013-05-02 23:52:42)
ろりい文ちゃんが書けたのでちょっと満足
生煮え(参加 (2013-05-02 23:52:42)
最後の一行はばっちり決まってましたね
生煮え(参加 (2013-05-02 23:53:05)
これで印象がかわりました
這い寄る妖怪(参加) (2013-05-02 23:53:13)
接点が見えない(境遇とか性格とか現状とか)のでそこら辺絡める方が面白かったかも。
Ministery@参加 (2013-05-02 23:53:23)
そうかなあ、最後でなんか謎を思い出しちゃって「あれ結末は?」感を
ライア(参加) (2013-05-02 23:54:02)
最後の所為で全体が浮いてしまった気が
ホワビー@参加 (2013-05-02 23:54:18)
月から来た直後ってことにすると文が生まれてるのか微妙なレベルになりそうな予感
ホワビー@参加 (2013-05-02 23:54:20)
どうでもいいけど
見てる人@見学 (2013-05-02 23:54:23)
そうか、寺の人間とありましたね。見落としでした。
Ministery@参加 (2013-05-02 23:54:43)
つまり背景が謎すぎる
かじつ@見てる感じ (2013-05-02 23:54:48)
思うんだけど
I・B@司会(参加) (2013-05-02 23:55:02)
確かに、背景が想像しづらい
かじつ@見てる感じ (2013-05-02 23:55:02)
輝夜と永琳が返り血に染まっていたなら,文も警戒するんじゃないの?
かじつ@見てる感じ (2013-05-02 23:55:10)
どの時点でふたりは返り血に染まったんだろう?
Ministery@参加 (2013-05-02 23:55:29)
最初からじゃないの?
I・B@司会(参加) (2013-05-02 23:55:40)
文ちゃん鳥目だから、みえなかったんだよ!
かじつ@見てる感じ (2013-05-02 23:55:45)
マジか……!
U.N.owen(参加) (2013-05-02 23:55:46)
月の民殺害後に竹林へと逃げこんでいるはずですね
I・B@司会(参加) (2013-05-02 23:55:49)
あ、でも臭うか
生煮え(参加 (2013-05-02 23:55:53)
背景が想像しづらいですかね?
Ministery@参加 (2013-05-02 23:56:09)
出会った瞬間ダッシュで逃げるし、実際文も逃げている
U.N.owen(参加) (2013-05-02 23:56:30)
文は人間に襲われた後竹林に逃げ込んでそこで偶然ということなんで
I・B@司会(参加) (2013-05-02 23:56:31)
ええっと、視覚的な意味で背景。返り血のタイミングとか。ここどこよ、とか。
のんびりと@見学 (2013-05-02 23:56:32)
多分、二度目の殺意を向けられた辺りで、文が二人が血濡れだって気付くような感じだったら違和感なかったんでしょうね。
生煮え(参加 (2013-05-02 23:56:36)
「ここからですよ。これから二人で生活する為の家を建てなければいけないもの」 これで、あああの頃の話だなとわかるんじゃないかな
U.N.owen(参加) (2013-05-02 23:56:41)
背景は想像できるかな、と
かじつ@見てる感じ (2013-05-02 23:57:05)
出会った時点で逃げているっぽくはあるんだけど
I・B@司会(参加) (2013-05-02 23:57:10)
ここどこよ、は読み込みミスだな。ごめんなさいorz
Ministery@参加 (2013-05-02 23:57:17)
むしろ血まみれの人に治療されるホラーてきな要素を狙っているのだと思ってた
かじつ@見てる感じ (2013-05-02 23:57:22)
その後助けられて疑いもせず答えているとあるんだけど
かじつ@見てる感じ (2013-05-02 23:57:49)
手当てされたからと言って返り血まみれの人間をそう易々と信じられるだろうか的な違和感。
多々良希美(さんか) (2013-05-02 23:57:58)
永琳が弓をガトリングみたいにしてると思うとほんわかします
U.N.owen(参加) (2013-05-02 23:58:13)
どうなってるの!?
生煮え(参加 (2013-05-02 23:58:15)
それで、あの頃の話だとは読者もわかるんだけど、最後の一行でそれが強調されて
見てる人@見学 (2013-05-02 23:58:23)
文が妖怪だからじゃないですかね。
Ministery@参加 (2013-05-02 23:58:32)
ジャイアントロボの劇場版を見ればわかる>弓ガトリング
ライア(参加) (2013-05-02 23:58:36)
(何の考えも無しに最後の一行を追加したら全体がおかしくなってしまったという悪いテンプレ
かじつ@見てる感じ (2013-05-02 23:58:56)
妖怪にしても警戒はしそうかなとも。
這い寄る妖怪(参加) (2013-05-02 23:59:08)
あややも返り血だらけ(他者に殺意を向けてきた)だと応報を恐れる文と言う形で綺麗にストンと落ちたかなーと
I・B@司会(参加) (2013-05-02 23:59:11)
疑わないロリ文ちゃん……ハッ! 調教済み!?
生煮え(参加 (2013-05-02 23:59:14)
そうすると連鎖的に永琳の毒殺とかも連想されて、一気に陰惨な雰囲気になって、いい感じだと僕は思いました
ライア(参加) (2013-05-02 23:59:24)
そこに気付くとは・・・やはりへんたいか
U.N.owen(参加) (2013-05-02 23:59:49)
おまわりさんこいつらです。あと内定ください。
Ministery@参加 (2013-05-02 23:59:53)
あー文も血まみれってのは思いつかなかったなあ、いいねそれ
I・B@司会(参加) (2013-05-03 00:00:14)
そろそろ区切り。残りの時間はフリーで、思い思いに語り残したことを語りましょう。