「太子様、“あるばいと”をしたいのですが」
「……はあ?」
唐突な屠自古からの懇願に、太子こと豊聡耳神子はそんな曖昧な返事を返した。
彼女は普段、住まいの神界から外に出ることはあまりない。同胞である神子や布都とは違い、尸解仙とは異なる亡霊という形で復活(?)した彼女は人目につくのを嫌がるところがあった。
ちょっとした遺恨のせいで彼女をこんな風にしてしまった布都も随分と反省し、埋め合わせのつもりで彼女とともに外に出ようとするのだが、
(今更人前に出れるような姿でもなし、構わない)
と外出を拒みがちだったのである。
ちなみにその度に布都は泣くのだが、あやしてやるのは芳香の仕事であったりする。
どうもあのキョンシーが最近覚えた“だんす”とやらが好きらしい。神子はあの「ポーゥ!」という掛け声が好きではなかったが。
閑話休題。
神子としても布都が泣くのは色々と面倒だし、何より偽装とはいえ夫婦として周りの目を誤魔化した仲の相手が篭ってばかりであることに胸を痛めていたのも確かなのだ。
そんな彼女が進んで外出するというのならばそれは喜ばしいことだろう。
「当然構いませんよ。ところで、何処で“あるばいと”を?」
「紅魔館、というところだそうです」
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「ようこそ、屠自古さん。私、紅魔館のメイド長を努めさせていただいている十六夜咲夜と申します」
霧の湖を越えた先にある赤い館を訪ねて行った屠自古を出迎えたのは、アルバイトの求人を出した本人――すなわち十六夜咲夜であった。
「蘇我屠自古だ、よろしく頼む。ところで――」
屠自古は懐から一枚のわら半紙を取りですと軽く振ってみせる。
底に書かれている文字数はあまり多くはない。
『急募、雷を使える方 報酬 必要なだけの時間』
「……私を呼び出すためのチラシではないのか?」
「真逆。雷を使う方には他にも心当たりがありましたので、誰が来るかはわかりませんでした」
内心の読めない笑顔でころころ笑う咲夜。
そんな彼女を訝しげに見やりながらも、屠自古は問う。
「何をすればいい? そして、この報酬はどういう意味だ?」
「簡単なお話ですよ。貴女は、どんな都合の良い時間が欲しいのです?」
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「布都、少し出かけないか?」
その日、屠自古は帰るなり布都にそう告げた。
「お、おおお! そ、そうかそうか! 出かける気になったか! ようし、里にでも行って菓子を食べよう!」
布都はそれを聞くなり大喜びで支度を始める。
ちょっとした遺恨――――つまりは、自身より屠自古の方が少しだけ神子に近い立場に居たと言うそれだけの理由で彼女を亡霊にしてしまったことを布都はずっと後悔していた。
彼女の失われた両足を見る度に居心地の悪い顔をしていたし、贖罪のつもりで外出を誘って、拒絶されて落ち込むのもいつものこと。
そんな彼女の方から外出を誘ったというのは布都にとっては喜びだった。
少しでもこの幻想郷という世界を見せて、屠自古を楽しませてやろう。そう考えながら布都は人里へと飛び出して。
そして、人里の状態に腰を抜かすほど驚いた。
止まっていた。ヒトも猫も犬も妖怪もなにもかも、ピタリと静止して動かなくなっていたのだ。
まるで一枚の絵画の中に飛び込んでしまったかのように、二人以外のすべてが止まっていた。
「あ、ああわわわわわわとととと屠自古! いいいいい異変ではあるまいか!」
腰を抜かしてへたり込む布都を起こしてやってから、屠自古はクスリと笑ってみせる。
「落ち着け布都。今時の人里はこういうこともあるそうだ」
「そ、そうなのか?」
「そうなのだ。さ、菓子でも食おう。金を置いてゆけば文句は言うまい」
屠自古はにかりと笑って布都を引っ張って連れて行く。
こうやって布都と遊ぶのはきっと楽しい。
許すも許さないもなく屠自古は布都が好きであって、そもそも屠自古自身はこの亡霊の体を厭ったことはない。
ただ、こんな異様な風体を布都や神子以外の――神子達が導くべき、普通の人間に見られるのはよろしくない。
自分如きのちょっと異様な姿のせいで恐れられ、彼女らの布教が妨げられてしまったらとてもとても申し訳ない。
だから、人目を気にせず人里に出て行けるこんな時間を確保してくれるのなら。
あのメイド長のために雷の100発や200発、喜んで落としてやろうというものだ。
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「パチェー、まだ魔法動かないの……うひゃあ!」
「天候操作用魔法が動いてるのは貴女もわかるでしょ。この雷、ひょっとしたら人為的な……」
「きゃん! また落ちたあ!」
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「咲夜ぁー、私雷だけはダメなのよう」
「はいはい、今日は咲夜めがずっと一緒に居ますからご安心ください」
這い寄る妖怪さん 『バイト代は三時間』
這い寄る妖怪(参加) (2013-06-07 23:01:14)
よろしくお願いしまーす
haruka(未定) (2013-06-07 23:01:18)
へんたいだー!!
I・B@司会(参加) (2013-06-07 23:01:33)
読み終わってから納得するタイトル。こういうの好きですw
haruka(未定) (2013-06-07 23:01:37)
(´・ω・`)b<おちぐっど
H2O(参加) (2013-06-07 23:01:48)
最後、で全部持っていったw
ライア(参加 (2013-06-07 23:03:17)
仮に別の心当たりだった場合
I・B@司会(参加) (2013-06-07 23:03:26)
とにかく、流れが綺麗。話がわかりやすい。
ライア(参加 (2013-06-07 23:03:43)
衣玖さん(例)の場合でも上手く行きそうなのがまた
ぴす(参加) (2013-06-07 23:03:44)
実はさっきの作品と通じて
ぴす(参加) (2013-06-07 23:03:53)
メインキャラである二人の辛味とは別に
H2O(参加) (2013-06-07 23:03:54)
屠自古も布都と話すきっかけを探していたのだと思うと可愛い
かぼちゃ(参加) (2013-06-07 23:04:01)
最初に屠自古は人前を嫌がる、と示してあるのでスムーズな感があります
ぴす(参加) (2013-06-07 23:04:11)
そのメインキャラが普段からんでいるキャラを使うことにより
這い寄る妖怪(参加) (2013-06-07 23:04:13)
この組み合わせだと接点思いつかなさすぎィ
かぼちゃ(参加) (2013-06-07 23:04:16)
その解決に行くのだろうと道筋が
ぴす(参加) (2013-06-07 23:04:25)
自分の書きやすいものに仕上げるという短時間ものの技術がw
ライア(参加 (2013-06-07 23:04:25)
時間を止めて散歩とは考えましたな
ぴす(参加) (2013-06-07 23:05:07)
陣営を使うことで舞台設定をつくりやすいというところもあるけれどね
H2O(参加) (2013-06-07 23:05:11)
その発想がなかった
這い寄る妖怪(参加) (2013-06-07 23:05:17)
きっと咲夜さんアレコレバイト雇っていろんな手でおぜう怖がらせてるよ。
haruka(未定) (2013-06-07 23:05:33)
ただ個人的には
haruka(未定) (2013-06-07 23:05:43)
あんな怪しいチラシでホイホイ出て行くのはちと「?」となる
I・B@司会(参加) (2013-06-07 23:05:44)
(おっと。9分まで
かぼちゃ(参加) (2013-06-07 23:05:46)
咲夜さんに関しては屠自古である必然性がないのは確かに接点が難しいところではあるのでしょう
haruka(未定) (2013-06-07 23:06:04)
どうもキャラの話し方、動かし方見てると
haruka(未定) (2013-06-07 23:06:17)
えらい用心深い&慎重な感じがしたので
這い寄る妖怪(参加) (2013-06-07 23:06:42)
明らかに名指しに近い条件で人が集められてたら気になりません?
かぼちゃ(参加) (2013-06-07 23:06:47)
人前が苦手から見ると、そこは引っかかる感がありますね
かぼちゃ(参加) (2013-06-07 23:07:06)
それに関してはやはり名指しとは見えませんかね
かじつ(見) (2013-06-07 23:07:10)
コメディでも妖怪さんっぽさが出ている感がありますね。
H2O(参加) (2013-06-07 23:07:15)
事前に彼女からの報酬がどういうものであるかを知っていたなら問題なしか
這い寄る妖怪(参加) (2013-06-07 23:07:17)
「鉄球っぽい人求む」って求人チラシあったら気になるでしょ?
かぼちゃ(参加) (2013-06-07 23:07:17)
少なくとも雲山衣玖さんは出てくるので
かじつ(見) (2013-06-07 23:07:46)
ノリと勢いで進めるのではなく,ひとつひとつ行動・動機に理屈付けをしているので
ぴす(参加) (2013-06-07 23:07:46)
、、、むしろ雲山は出てこない(作者的に)
かじつ(見) (2013-06-07 23:07:59)
ややもすると窮屈さを感じさせかねないきらいもなきにしもあらず。
ぴす(参加) (2013-06-07 23:08:43)
そういえば仔馬館とあの陣営って接点少なかったな
這い寄る妖怪(参加) (2013-06-07 23:08:50)
屠自古からしてみれば名指しに近いチラシだろう、と。
ぴす(参加) (2013-06-07 23:09:05)
そのうえで自然な流れを作るのは、まあ難しいので
haruka(未定) (2013-06-07 23:09:13)
逆に言うと、接点のない連中に名指しされたら逆に警戒すると思う
ぴす(参加) (2013-06-07 23:09:15)
あれで呼び出すという流れは別に問題ないかと
haruka(未定) (2013-06-07 23:09:17)
まぁ
這い寄る妖怪(参加) (2013-06-07 23:09:25)
理由のない行動ってフィクションだとどうしてもご都合に見えちゃうんで。
haruka(未定) (2013-06-07 23:09:33)
最後の変態オチで全て持ってったのでおk(`・ω・´)b
かぼちゃ(参加) (2013-06-07 23:09:49)
屠自古から見れば名指しに近いと考えているなら、その点のフォローがあった方が確実でしょうね
這い寄る妖怪(参加) (2013-06-07 23:09:57)
小説は事実より奇であってはならなかったりするもんです。
かじつ(見) (2013-06-07 23:10:19)
やはり本来的に長編向けの資質か。
ぴす(参加) (2013-06-07 23:10:22)
むしろいくは展開だから
ぴす(参加) (2013-06-07 23:10:37)
天界だから実質名指しで言い切ればよいと思われる
I・B@司会(参加) (2013-06-07 23:10:42)
よし、ではいったんここまで。
這い寄る妖怪(参加) (2013-06-07 23:10:46)
「なんとなく事情聴取した人が犯人だったので捕まえた」って推理小説じゃアウトでしょう
かぼちゃ(参加) (2013-06-07 23:10:47)
理由のない行動というか、慎重さから見て引っかかる感ですかね
I・B@司会(参加) (2013-06-07 23:10:54)
次ー
這い寄る妖怪(参加) (2013-06-07 23:10:55)
ありがとうございましたー
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