私の家には物が多い。口の悪い奴らはゴミ屋敷みたいに言うが、これはこれで完璧に計算された配置なんだ。例えば、そこの食卓兼物置には食事にも読書にも研究にも最適なように、必要な物全てが置いてある。
お茶を淹れるのも、錬金術の準備をするのもおちゃのこさいさいだ。食卓の上にはパソコンがある。その裏には本とお盆と太字の万年筆と誰かの描いた絵と櫛と、あと人形が重ねて置いてある。
人形は不気味で、特に夜中なんかは見たくないから、それを覆い隠す上でも見事な配置だ。
唯一の問題は、あまりにも機能的すぎて天災には弱いと言う事だろうか。食卓の裏手には戸棚があって、そこには並べきれないほど沢山の物がある。
そして雪崩が起きた。地震のせいだ。ぐらぐら、と揺れて、物が振ってきた。
心底から泣きたくなった。何がどこにあるか、八割くらいは覚えていたのに、戸棚も食卓もその他も滅茶苦茶だ。
ついでに言えば、物理的にも涙が出てきた。埃のせいだ。くしゃみと鼻水が止まらない。掃除だけはもう少しこまめにやろう、と私は決心した。あと地震を予知できるようにナマズでも飼おう。
惨憺たる有様の我が家を絶望的な目で見つめていた。アリスが言ってたっけ。「いつか地震が来たらどうするの」って。だから物を捨てろと。と言っても、いつか道具が必要になると思うと捨てるのも難しい。
本当に、捨てるのは難しいんだ。物と物の間を縫っていると、写真立てが落ちているのに気がついた。ガラスは割れていなかったし、写真も破れたりはしていなかった。こんなもの、いらない物の筆頭なんだけどな。
さて、どこに戻そうか。なるべく見えないところにしまっておきたい。そう思いながら、食卓だった山の上に、私は写真立てを置いた時だ。
「号外ー! 号外ー!」
ちょうどいい相方が見つかったようだ。しかし地震が起きてすぐなのにもう号外か、どういう仕組みで書いては印刷してるんだ。天狗どもは。揺れたと言っても人がどうこうってほどの大きさでもないし、何より天狗の新聞なら号外が出たからと心配するようなもんじゃないのはわかってるから、私は一目散に飛んでいった。
「そこのパパラッチ!」
「魔理沙さん。号外をどうぞ」
「号外って、地震かい? そっちの早さは見事だな。飛ぶ速さは私が上だが」
「いえ、そこは人間と天狗では比にも。ああ、でも地震じゃないです。流石に。河童が新発明したとかで」
「それは今日の天気は晴れくらいありきたりな情報だな」
役にたつ割合は、春に雪が降るくらいか。まあ皆無ではない。このあたりは割に寒い気候らしいしな。そうでなくても妖怪が暴れれば。
「まあ、なかなかネタも不足していましてね。号外を配りつつ、地道にネタを捜している最中ですよ」
「そこで朗報がある」
「と言いますと、何かネタでも?」
「うむ。ただし条件があるというかだな、さっきの地震で私の家がごちゃごちゃになって、メモとかそのへんを捜さないと上手く説明できそうにないんだ」
「本当ですかねえ」
半信半疑というか、七割は疑っていたが、私は嘘は言わない。ネタはある。
「疑うなら構わないさ。他の天狗に売りつけるだけの話で。その場合はロハとは言わないが、お前にはただでいいよ、どっちにしても片付けはしないといけないし、どっちも得するわけで」
「ふうむ。まあやらずに後悔よりやって後悔ですかね」
それに、天狗連中ってのはこの辺には駄目もとで首を突っ込む質だからな。新聞の最大の用途が鍋敷きで、次が障子紙の代用なのを思えば、駄目もとで大体駄目なんだけどな。
さて、どんなネタを作ろうか。まあ、そいつは片付けながら考えよう。
◇
「あやや……惨憺たる有様ですねえ」
「里とかは被害もないんだろう?」
「そこまで大きい地震じゃないですよ。それでこれは……これだけでネタになりますね。『恐怖! ゴミ屋敷に住む汚魔女!』どうです、その辺に黒魔術の生け贄でも起きませんか? 一層雰囲気が出ますよ」
「風呂は一日二回ははいってるぜ……別に私は魔女じゃないし、ホラー路線はアリスのとこでも行ってくれ」
部屋もそのくらいは掃除した方がいいんだろうか。そっちの方がいい気もするんだが、自分の髪とかその辺ほどには愛着もないんだろうな。この金髪を賜らせてくださったことだけは、まあ親父とお袋を褒めてもいい点だ。
「ところで、河童の新発明ってなんだ?」
「これですよ」
射命丸が渡してきた新聞には「文化女中機」なるものが開発されたと書いてあった。私が読む最中に、射命丸はテキパキと物を片付けていく。思った以上に真面目な奴だ。
「ふうむ。これは珍しく欲しいぞ。機械が勝手に片付けしてくれるんだろ?」
「そうみたいですね」
「みたい、ってお前が書いた記事だろうが」
「ああ……理屈はそうらしいんですが」
どれどれ、と読み進めると、そいつが河童を襲い始めたらしい。
「生き物こそが自然のゴミという発想なんだろうか」
「そういうと三文SFもかくやですが、事実は事実みたいですよ。単にゴミを認識する機能が甘いだけなんしょうすけどね……って、このインク、固まってどうにもならないですよ、貴方もゴミの認識が甘いようで」
「あ、それは置く場所決めてるんだ、貸してくれ。中のインクは駄目でもな――」
まあ、捨てる物、捨てない物の区別は人間でも曖昧だからな、いわんや機械を、ってところか。
実際、肉体的にはある程度楽だが、物を置くとことかは最初に行ったように計算してるんだ。どうも二度手間になってしまいそうに思える。
「いや、それはティーポットに見えるが、違うんだ」
そんな会話をしていると、今でも時間が経ってしまう。
とはいえ、おおむね片付けは終わった。ああ、ネタはなんにしようかな。アリスの藁人形がよなよなとかその辺にしておくか。実際この間襲われたのは確かだ。あいつが留守の間に物を借りに言っただけなのに。
「で、ネタだがな」
「ありがとうございます。いいネタが出来ましたよ。このゴミ屋敷は片付けをしない人たちへの警鐘になりますからね。子供を叱るお供にもなりますし、売れそうです」
「私の名誉に関わる。断じてゴミ屋敷ではないしな」
「百聞は一見に如かず。判断は写真を見た読者にゆだねましょう」
ふむ。面倒になってきたな。ここは開発中の魔法で物理的に記憶をリセットしてみるか……妖怪相手だから惨事にはならんだろう。
「まあ、でも写真だけでもいいですよ。文化女中機使用前使用後、そんな写真を捜してたとこです。というかこっちがメインなんですけどね。ネタは正直有ってもなくてもとは最初から」
「捏造じゃないか」
「ちゃんと『広告のページ』と入れるから大丈夫です。あくまでイメージとして――」
さて、どうやってこの捏造記者に教育的指導をしようかと思っていると、
「あら、懐かしいですね」
射命丸が眼を細めた。その視線の先には写真立てがあって――
「おっと、幻想郷最速の私に勝とうとは甘いですよ」
動揺してしまった。おかげでスタートが遅れた。そいつが敗因だ。
「この写真を撮った頃は私もまだ駆け出しでしたねえ」
写真の中には、親父とちっちゃな私がいる。
「そいつはゴミだ、処分してくれていいよ」
「人の物を勝手には捨てられません。しかし、あの小さくて可愛い魔理沙ちゃんが、こうなってしまった。これもネタになりますね」
手を繋いで笑ってる。
親父は捨ててやったんだけどな。こっちから勘当してやった。でも、なんで物ってのは捨てられないんだろう。
「ともあれ、この写真も記録に収めておきますか。何かで記事に出来るように」
おかげで、絶対に自分では捨てられない物になってしまった。
かぼちゃさん 『うそ、私の家……物が多すぎ?』
I・B@司会(参加) (2013-06-07 23:11:02)
どうぞ!
かぼちゃ(参加) (2013-06-07 23:11:03)
よろしくお願いします
haruka(未定) (2013-06-07 23:11:27)
つ[生きてるゴミ箱]
haruka(未定) (2013-06-07 23:11:31)
つ[生きてるほうき]
ライア(参加 (2013-06-07 23:11:34)
まさかのイイハナシ
haruka(未定) (2013-06-07 23:11:44)
これを練金で作るんだ・・・!
H2O(参加) (2013-06-07 23:12:16)
ラスト好きや
I・B@司会(参加) (2013-06-07 23:12:23)
なるほど、これは捨てられない。
I・B@司会(参加) (2013-06-07 23:12:40)
(19分まで
這い寄る妖怪(参加) (2013-06-07 23:12:45)
人(親父)は捨てられる、という一言に魔理沙の業を見る。
ぴす(参加) (2013-06-07 23:12:58)
ごみの中から出てきた、本人がごみと言い切れない宝物(、、
H2O(参加) (2013-06-07 23:13:02)
者より思い出
ぴす(参加) (2013-06-07 23:13:11)
そんな受け取り方でいいのでしょうかね?(’’
ぴす(参加) (2013-06-07 23:13:38)
宝物、とまで言い切るのもあれか
ライア(参加 (2013-06-07 23:14:16)
親を捨てて来たのに、親との写真(物)を捨てられなかったのでしょう
ライア(参加 (2013-06-07 23:14:36)
解釈は複数有りそうなものの、どれも良い方向なのが良い感じ
ライア(参加 (2013-06-07 23:15:15)
写真を撮った頃は、仲も良かったのだろうと
H2O(参加) (2013-06-07 23:15:24)
むしろ思いを捨てきれない感じが
I・B@司会(参加) (2013-06-07 23:15:47)
魔理沙の背景事情が読みながら色々想像出来て面白い
かぼちゃ(参加) (2013-06-07 23:15:50)
勘当されたとかなんとかでも
かぼちゃ(参加) (2013-06-07 23:16:07)
まあ実際は思っているんだろうと考えていますが
かじつ(見) (2013-06-07 23:16:21)
無難に纏まっている感。
かぼちゃ(参加) (2013-06-07 23:16:22)
その辺は省いたので解釈は自由にですかね
這い寄る妖怪(参加) (2013-06-07 23:16:22)
ところで文化女中機ってメイドロボってことでいいんでしょうか(真顔)
ライア(参加 (2013-06-07 23:16:33)
ルンバっぽかった
かぼちゃ(参加) (2013-06-07 23:16:43)
写真が無事で安堵とか最初は書いてましたけど消しました
ライア(参加 (2013-06-07 23:16:56)
消して正解かも
かぼちゃ(参加) (2013-06-07 23:16:59)
どんな
ぴす(参加) (2013-06-07 23:17:02)
文がこのころの魔理沙を知っているという感がしたのは ? となりましたが
ぴす(参加) (2013-06-07 23:17:14)
話の流れ的に問題ない違和感だと思いました
かぼちゃ(参加) (2013-06-07 23:17:23)
形なのでしょう、と全く考えていなくてもいけるのが文章の強み
ライア(参加 (2013-06-07 23:17:31)
文が写真を見て、少し考えてから思い出していたら違和感無かったかも
ライア(参加 (2013-06-07 23:18:04)
魔理沙の事を覚えていなくても、撮った写真は覚えている。みたいな感じで
かぼちゃ(参加) (2013-06-07 23:18:23)
ラストはもっと余裕有った方がいいんでしょうね。射命丸が勝手にわかっていきなり終わりで
ぴす(参加) (2013-06-07 23:18:31)
まあ、妖怪単位だから少し前に撮った写真ということで覚えているというのも
ぴす(参加) (2013-06-07 23:18:43)
人間と妖怪の年の差を出せていいですけどね
H2O(参加) (2013-06-07 23:18:51)
それか可愛らしいのに、って見た目で判断とか
haruka(未定) (2013-06-07 23:18:58)
唐突に始まり、唐突に終わる。終わりが一足飛び
haruka(未定) (2013-06-07 23:19:04)
気になったのはそこかなー
haruka(未定) (2013-06-07 23:19:16)
人のこと言えるか、って? ごもっともで(´・ω・`)
かじつ(見) (2013-06-07 23:19:24)
そう?
ぴす(参加) (2013-06-07 23:19:41)
まあ、流れはそんな急でもないと思うけど
かぼちゃ(参加) (2013-06-07 23:19:44)
射命丸と魔理沙の過去的な物にワンクッション有るとスムーズかとは思います
かじつ(見) (2013-06-07 23:19:48)
終わりが一足飛びなのはそんな気もするけど
ぴす(参加) (2013-06-07 23:19:51)
最後の最後だけ穴―
かぼちゃ(参加) (2013-06-07 23:19:56)
始まりはまあこんなスピードでいいかなと
ぴす(参加) (2013-06-07 23:20:01)
急いでるように見えたのは
かじつ(見) (2013-06-07 23:20:03)
始まりと終わりは,まあ時間と分量を考えればこんなものじゃないか。
I・B@司会(参加) (2013-06-07 23:20:17)
では、ここまで
這い寄る妖怪(参加) (2013-06-07 23:20:18)
捨てられない、という程度の距離感と考えるとちょっと虚しい。
haruka(未定) (2013-06-07 23:20:25)
10kbほしかった!!
かぼちゃ(参加) (2013-06-07 23:20:25)
ありがとうございました
I・B@司会(参加) (2013-06-07 23:20:30)
では次ー
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