美味しいと評判の羊羹が手に入ったので
今日は気軽に博麗神社に遊びに行くことが出来ます。
神奈子様が命蓮寺から貰ったそうです。
とら柄の羊羹、おいしそう。
いつも特に理由もなくおみやげも無く向かうと
またきたの？ という面倒くさそうな視線が向けられるのであんまりいい気はしません。
なんでも、霊夢さんはどんなに仲の良い知り合いでも神社に入れば客は客。
最低限のおもてなしをしなくてはいけないと思っているそうで
神社に行くと初めにしてくれる、お茶とお茶請けを出すことは必須の行為だと思っているみたいです。
おみやげを持って行くと機嫌もよく、お茶も濃くしてくれるけど
何にもないときはうっすいお茶とお漬物が2,3切れ出される程度。
なので、羊羹を持っていくということは霊夢さんのおもてなしレベルの中でも
最高峰のものを受けられるという、所存なのです。
私の足も軽くなっていルのがわかります。飛んでるけど
「こんにちは。羊羹を持ってきました！」
キメ顔早苗フェイスで居間に入るものの
いつも見受けられる面倒くさフェイスが見受けられません。
庭で掃き掃除をしている以外は基本的に居間にいることで知られている
幻想郷一やることが少ない女である霊夢さんなのですが
今日はどこに行ったんでしょう。
博麗神社はオープンこの上ないので風呂やお勝手も勝手に探してみますが
なかなか見つかりません。
まさか未だにお布団の中なのでは。
その思考の基、私は寝室へと足を運びました。
「まさかほんとうにいるとは……」
布団がこんもりと盛り上がっており、周りには見慣れた装束が脱ぎ散らかしてあります。
昨日宴会でもあって、そのまま横になったのでしょうか。
「ちょっと、もうお昼すぎどころかカラスがなく頃ですよ。
いい加減に起きてください」
「…………誰？」
「私です早苗です。幻想郷で一番可愛いで知られている」
「…………帰って」
「なんでですか、せっかく来たのに。
羊羹ありますよ、羊羹。命蓮寺からもらったとら柄の羊羹」
羊羹という単語を出すとピクリと布団が動く。
「お、反応しましたね。この羊羹良い評判ですものね。さ、起きて起きて。お茶を淹れてあげますから。
食べたくないんですか？」
「……食べたい」
「じゃあ起きてください！」
「ねえ」
私とは反対側の毛布がぺろんとめくられます。
さっきより鮮明に霊夢さんの声が聞こえます。
「…………かみを切ったの」
「なんと不謹慎な！ 巫女というものが神様のことを……！」
「いや、ヘアーの方」
「あ、そっちですか。でもいいですね、見せて下さいよ。早く早く」
「…………失敗したの」
「え？」
「面倒だから、自分で切ったんだけど、失敗したのよ」
ははあん、なるほど。
だからさっきから引きこも霊夢だったわけですね。
ですが、そこまで隠されると見たくなるのが人の性ってもの。女の性ってもの。
「見せてくださいよ」
「……絶対笑うし」
「笑いませんよ」
「……笑うし」
「笑わないですったら」
「……」
「じゃあこうしましょう、霊夢さん目をつぶっててください」
「え？」
「多分面と向かうから恥ずかしいんです。一度目をつぶって見せてくれれば慣れますし、恥ずかしくないですよ」
「……そういうことなら」
霊夢さんがやっと布団から生まれました。
向こうを向いて、髪型を手櫛でせっせと直しています。
「……笑ったら怒るわよ？」
「ええ！」
「じゃあ」
ゆっくりと霊夢さんが振り返ります。
「ぶふっ！」
そして私のおびただしい量のつばが霊夢さんの顔面に吹きかかります。
感想をいうと、とてもかわいらしかったです。
多分、前髪を失敗してしまったのでしょう。
いつもより心なしか短く、眉上3cmほどのぱっつんヘアーがとっても子供らしくてキュートです。
可愛らしいんだけど、やっぱり吹いてしまいます。
だって。
「汚っ！ ちょ、ちょっと！ 笑わないって言……」
「ばーん」
「ぶふっ！」
今度は霊夢さんのつばが私の顔面に吹きかかります。
とても汚いです。
「な、なにそれ！ ぶふっ！ あはは、その髪型っ……！ あははっ」
「私も散髪に失敗してしまいまして。眉上6cmのぱっつんです。可愛らしいでしょ」
「ぶふふふっ…… だめ、ひどすぎる。くふ、くふふう」
「笑いすぎですよ！ 霊夢さんもだいぶキてますからね！」
「だって、だって、まさか、そんな髪……！ あはははっ」
こうして、二人でお互いの髪型をなじりあい
顔面につばを吹きかけながら狂ったように笑い合うのを
天狗のカメラはしっかり捉えていたようで。
『ぱっつん巫女二人、人里にぱっつんブームを巻き起こす！』
という新聞が発行されるのはまた別の話です。
『巫女が失敗いっぱいしたよ』
終わり
617 生煮え＠見学 不貞寝する霊夢がかわいい
616 名無しZ＠参加 お疲れ様でした
615 梶五日＠参加 お疲れ様でしたー
614 名無し お疲れ様でした。
613 baka@参加 ありがとうございました！ とても参考になります
612 Ｋ．Ｍ お疲れさまでした
611 かぼちゃ＠参加 そろそろ十五分ですね
610 Ｋ．Ｍ なるほど
609 baka@参加 お勝手も勝手に いっぱい失敗 きいきいと奇異な声を こういうの好きなのです
608 かぼちゃ＠参加 その口調が早苗らしいと感じさせるものはあったと思います
607 Ｋ．Ｍ 「お勝手も勝手に」というのは意識して書いた地口?
606 ふうら ムカつくけど最終的には許されそう
605 ふうら 我慢するつもりもなく笑う早苗が良いですね
604 baka@参加 早苗さんは、一方的に語りかける口調が似合うと思いましたので早苗さんの怒涛のひとりごとラッシュを読み手さんに感じてほしいというのは有りましたね
603 かぼちゃ＠参加 確かに気の置けない仲という感は伝わりますね
602 名無し 博麗神社なのに早苗がこう言うということは，それこそ「かつて知ったる」といった間柄なのでしょう。こういう書き方はよろしい。
601 ライア＠参加 （眉上６センチって下手したら丸刈りレベルなのでは
600 名無し ちなみに私が良いと思った部分を挙げるならここかな。 >さ、起きて起きて。お茶を淹れてあげますから。
599 baka@参加 「おでこが涼しい」いいですね！ あれ？なんかあるのかも→やっぱり！ っていう欲を満たせます
598 かぼちゃ＠参加 というのは、聞き手を想定して書くのだろうか？ と思いました
597 梶五日＠参加 これ、時刻としては夕方に近いのだと思うのですが、そのあたりがあまり機能してなさそうなのがちょっと勿体ない気がしました
596 かぼちゃ＠参加 作品の内容と言うよりは、書き方の話なのですが、この作品のように明白な語りかけ口調
595 Ｋ．Ｍ 飛んでいる時、風の当たるおでこが涼しいとかでもイケるか?
594 baka@参加 確かにそれだと自然でよいですね！
593 名無し 額をなでる，は良いと思う。
592 かぼちゃ＠参加 羊羹に関しても、霊夢が人を避けているけれど、これがあれば受け入れられるだろう、と機能するかも
591 名無し 「いとしさ」というテーマにも沿うのではありませんか？
590 名無し 早苗は自分の髪型が失敗していながら，なおも霊夢のところへ行きたいという気持ちがあった，というような流れにでもすれば
589 生煮え＠見学 僕だけかもしれませんが
588 ふうら 流れる風が優しく額を撫でていき、私の足も軽くなっているのがわかります。飛んでるけど
587 ふうら こうします
586 生煮え＠見学 全体に面白かったんですけど、少し残念だなと思ったのが、眉上3cmほどのぱっつんヘアーなどがいまいち絵として浮かびづらかったのが
585 ふうら 私だったら、ですけど
584 名無し つまり，
583 Ｋ．Ｍ 鏡の前で念入りに整えてから出発、とか?
582 かぼちゃ＠参加 霊夢が何故か人を拒んでいるようなニュアンスが最初に強いと「ああ」となるかもしれません
581 baka@参加 そうですねー たしかに！ ああもったいなかった
580 ライア＠参加 ぱっつんだとは公開せずに、身だしなみに気を使う場所が有ると良かったかもですね
579 かぼちゃ＠参加 散髪という直接的な物でも無くても
578 名無し 神奈子「あんたそれで行くのかい？」 早苗「ええ」みたいな。
577 梶五日＠参加 伏線入れるとすれば、最初の方の早苗さんの語りに『ちょっと嫌なことがあったけど』とか言わせる？
576 baka@参加 今読んで分かりましたが冒頭に「前髪が私のおでこをくすぐります」とかでも良いのかと
575 名無し 神奈子と早苗の出発前の会話を少し挟んでおくなどの方法が考えられましょうか。
574 Ｋ．Ｍ 『昨日散髪してもらった』だとあからさますぎますかね
573 名無し たとえばですが，
572 baka@参加 そうなんですよ、これ、正直自分で書いてて愛しい方っって霊夢なんじゃあないかと
571 名無しZ＠参加 しかし伏線を入れるとなると、実際にはどうなりますかね？ ちょっと表現が難しい気が
570 ライア＠参加 （愛しさがどこに掛かっているのか、分かり難い感じ
569 名無し 早苗さんがパッツン髪ということならば，前半にそれを示唆するような描写を伏線めいた感じで入れておくといいのではないかなと。
568 ふうら 失敗を強調するのなら、なおさら逆の方がよかったかな。失敗いっぱいだと、どれだけ失敗したかってとこに焦点が当てられる感じ
567 名無し 私が構成について思ったのは，
566 baka@参加 失敗、を強調したかったので自然と先になりました ただ、たしかにいっぱい失敗の方が見やすいですねコレ
565 かぼちゃ＠参加 その方が内容にはあっている感は私にもありますかね
564 名無し どうなのかしら。
563 名無し そこは，後者だと普通に通るので，語感的に敢えて入れ替えたのかなとも思いましたが……。
562 かぼちゃ＠参加 個人的な感覚で言えば、先に平仮名の来る「いっぱい失敗」の方が柔らかく見えるかも
561 ふうら 元ネタや確たる意味が込められているのなら別ですけど
560 ふうら 「巫女が失敗いっぱいしたよ」より、「巫女がいっぱい失敗したよ」の方が語感がいいかなぁなんて思ったり
559 baka@参加 ＞所存 完全にミスです ありがとうございます
558 名無し 所存：心に思っていること。考え。意見。
557 生煮え＠見学 語り口調が早苗さんらしくてよかった
556 名無し ここ，「～という寸法なのです」の意味で使っていませんか？
555 ライア＠参加 ＞私の足も軽くなっていルのがわかります。 に背筋の凍る何かを感じました
554 名無し あと，作者さんは「所存」という言葉の意味を捉え違えている可能性が。
553 ふうら あとこれは個人的な印象なんだけど
552 Ｋ．Ｍ 「とら柄の羊羹」というのは、虎模様の包装紙にくるまっているのかそれとも羊羹自体が芋羊羹とまだらになっているのか気になった
551 名無しZ＠参加 ウザかわいいなら「貰った……じゃなくて頂いたものです」とかにすれば適切な表現も入れれてよかったかも
550 baka@参加 頂いた、そうですね なるほど
549 ふうら うざかわ早苗さんがよく表現できてると思います
548 梶五日＠参加 早苗さんの思考をダダ漏れにしたような文体で、可愛い
547 かぼちゃ＠参加 うざ可愛いに寄与している文体だと思います
546 名無し ここは「頂いた」が馴染む感じ。
545 名無しZ＠参加 髪を切るのが失敗したのが両方なのが面白かった、失敗したのが霊夢だけじゃ味気なかったかも
544 かぼちゃ＠参加 （ちなみに私は受け身で聞いていましたが、書き手側からも聞きたいことがあればどうぞ）
543 Ｋ．Ｍ 文体が独特ですね
542 名無し この作品でひとつめに気になったのは，「貰った」という部分かな。
541 生煮え＠見学 23:14まで
540 ふうら わたしこれ好きー
539 baka@参加 お願い致します。
538 かぼちゃ＠参加 「巫女が失敗いっぱいしたよ」 baka氏
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