一度、虐めの現場というものを目撃したことがある。
一人の天狗を、複数が寄ってたかって殴り蹴り、子供ともいうべき新聞を目の前で破り捨てられる。
それを見たかつての私は、虐められる側には回りたくないなと、つくづく思った。
「あんたさぁ、もっと真面目に書いたらどうなのよ」
「と、申しますと?」
今日も新聞のネタはないかと立ち寄った博麗神社で、顔を合わせるなり巫女にそう言われた。
「新聞のことよ。あんたの新聞久しぶりに読んだけど、またずいぶんと脚色してたじゃない」
「久しぶりって、毎回霊夢さんのところには配ってたはずですが」
つまり今まで丹精込めて書いた新聞のほとんどは読まれていなかったということである。とほほ。
「あんな風に書いてたら、そのうち誰かに恨まれるわよ」
「ははは、それならそれでまた新聞のネタになりますね」
「笑い事じゃないわ。そんなんじゃ、いつか背中刺されるわ」
珍しく、彼女の発言の端に気遣いを感じる。
巫女にそう思われるほど、自分の新聞は変わりつつあるということなのか。
しかしだからと言って止まらない、止められない。
「大丈夫ですよ。私は、清く正しい射命丸ですから」
清く正しく虐める側にも、虐められる側にも回るつもりはないのだ。
新聞を書く天狗の中には、特殊なヒエラルキーがある。
より素晴らしい新聞を書いた者は天狗たちの尊敬を集め、逆につまらない新聞を書くものは馬鹿にされ、蔑まれ、果てには虐めに発展する。
最初はそんなものはなかった、新聞が発行され始めた当時は、みんなただ新聞を書くことだけが目的であり、その評価自体は二の次だった。
だがいつからだろう、互いに互いの新聞を気にし始め、大会が開催されるようになるとそれは加速した。
今では大会のランキングが、次の大会までの一年の地位を決めると言っても過言ではなかった。
みんな、新聞を書くことに必死だ。
少しでもランキングを上げることを目的とし、そのためならばどんな手段をもいとわない。
仲には他の新聞が完成しないように邪魔をする者までいるらしい、私はそこまでのことをすることはないが。
しかし、事実を捻じ曲げ、情報を捏造し、愉快なエンターテイメント作品として新聞を書くことは、もはや天狗たちのあいだでは普通のこととなっていた。
誰もがランキングが下がることを恐れ、その先に待つ虐めを恐怖する。
自分もまたその一人だ。昔、虐めの現場を目撃して、自らの新聞を無価値だと目の前で破り捨てられるところを目撃した時は心臓がすくみ上った。
家に帰りその光景を自分に当てはめたものを想像した時、あまりの恐怖に吐きそうになった。
だが私は負けない。負けてやるもんか。
他の天狗に負けない、ランキングに負けない、そしてなによりも恐怖に負けない。
あんなものを想像し、その恐怖に負けて筆を折ることなどしてやるものか。
新聞は私の生き甲斐だ! 決してそれを止めることなどない! 止めることなどできるものか!
今までずっと書いてきたのだ、恐怖から逃げて、今さら後に引けるものか。
私は書き続ける、誰にも負けず、自分にも負けず、ずっとずっと意地でもなんでも書き続けてやる。
それが私のプライドであり、信念であった。
新聞大会を前に、恐怖に負けまいとするそんな私の前に彼女が現れた。
「そこまでよ!」
「あら、あなたは……」
「私が出てきたからには文の新聞もここまでよ!」
「『花菓子念報』のはたてじゃない。あの妄想新聞の」
「妄想新聞はそっちでしょ?私は念写新聞」
直接の面識があるわけではないが、彼女は少し知っている。
あの虐めの現場で、新聞を破り捨てられていた鴉天狗だ。
あれ以来ほとんど筆が折れて家に引きこもり、新聞もたまにしか発行していなかったはずだが。
「念写も大差無いけど、その弱小新聞の記者が私に何か用かしら?」
「弱小新聞って……その余裕も今日までよ。私はあんたに宣戦布告する!」
なんとまぁ、大きく出たものだ。
というか、また大会に出るつもりなのか彼女は。
虐めにあって以来、長い間大会に出なかったことにより、虐めも少し引いてきたところだというのに、ここでまた大会でランキング下位を飾れば彼女を待つのは地獄だろうに。
正直なところ、嫌な予感しかしなかった。
私の新聞を参考にするとか抜かしていたが、それだって上手く行くとは思わなかった。
なぜなら、彼女の新聞は真っ当すぎる。
念写なんて使うところに卑しさを感じたりはするが、肝心の記事自体は普通の新聞だ。
そんなのでは大会で勝てるわけがない。
新聞大会で勝てるのは、他者を蹴落として恨みを買ってでも、思いもがけないインパクトのある記事を書くものなのだ。
そして案の定。
「ありゃー、これは酷いですね」
大会のあと、はたての家に訪れたところ、それはそれは酷いありさまだった。
バカ、マウケ、クズ、売女。
様々な罵詈雑言が落ちぬくそうなドギツイ色のペンキで塗りたくられて、家の前には破り捨てられた花菓子念報が散らばっていた。
よくまぁここまでモラルをドブに捨てられるなぁと感心する。
しかしどうなってるかなど見に来るもなかったか、。
大方の予想が的中していたことを確認して、帰ろうと振り返った前にはたてがいた。
「うわ!?」
「……なによ、あんたも私を虐めに来たわけ?」
そう言って私を睨むはたての目の周りは大きなあざがくっきりと残っていた。
かわいそうに、女相手でも容赦がない。
「まさか、私はそんなことをしませんよ」
「そう、ならどいてよ、急いでるんだから」
身を引いて道を譲ると、はたては傷だらけの体を押して家の中に入っていった。
哀れな彼女に改めてなにか言葉をかけるべきか迷い、結局言える言葉が見つからず帰ろうとしたとき、再び玄関の扉が開いてはたてが出てきた。
「まだいたの? それともやっぱり虐めるつもり?」
「いや、だからちが……って、それよりなんですかその鞄」
はたては、その背中に巨大な鞄を背負って現れたのだ。
河童が背負っているような、中に物を詰めまくってパンパンになった鞄だ。
「文になら言ってもいいかな。私ね、山を出ようと思うの」
「山をですか? それはまぁ」
なんというか、当然か。
大方虐めに耐えられず、山を出てどこかでひっそりと暮らすつもりなのだろう。
また新聞大会になど出なけばこんなことにならなかっただろうに。
「それでね、山の外でまた新聞を一杯書くのよ!」
「……は?」
思わず目を丸くする。
てっきり完全に筆を折ってしまったというのに、彼女の発言はその真逆だ。
「今回の新聞大会、私としては完璧なものができたと思うけど、またランキングは酷かったし。これで新聞大会と、妖怪の山が腐りきってるのを理解したわ」
「それはまぁ、そうかもしれませんが」
「こんなところにいたら、私の思うがままに新聞を書くなんてことできないわ! 私は外に出て、今よりもっと自由に色んな事実を世に知らしめるのよ!」
「逃げるんですか、ここから?」
恐怖から逃げて、それでもまだ新聞を書くと。
「逃げてでもなんでもいいわ。私は新聞を書くのが好きだもん。そのためなら後ろ指さされるくらいなんともないし。もうスポンサーもついてるの! この前の取材の時に、金持ってそうな天人に話を持ち掛けて約束してもらった」
今まで、私は血反吐を吐いてでも恐怖に立ち向かうしかないと思っていた。
なのに彼女は、逃げた後のことを目を輝かせて語っている。
「これでのびのびと好きなものを書けるわ!」
私は、恐怖から逃げても強く生きられる彼女が羨ましく見えて仕方がなかった。
861 K.M お疲れさまでした
860 試験中 @見学 ただまあ、お題がお題なので絶望的にできるならそのほうが大方が抱く恐怖に近いかも。
859 ライア@参加 そこで天狗から完全に離れようとしているはたてを出せば、そこで対比できそうではあるし、その後の事も
858 名無しZ@参加 お題の恐怖から一歩踏み込んで、恐怖とは何かを意識するべきだったみたいですね
857 かぼちゃ@参加 この辺りで15分ですね
856 ライア@参加 射命丸は、自分が天狗から離れて暮らしていると思っていても、結局同じ天狗の中で生きられるように妥協しているのだと
855 名無し 重ねていくにせよ単独で攻めるにせよ,何を恐怖とするかの焦点はくっきりしてあったほうがいいのかな。
854 梶五日@参加 否定される恐怖が二重にあるのかも。自分のものを否定される怖さと、自分の属する社会が否定される怖さと
853 K.M >革命 古いしがらみぶっ壊せ! と。 そしてしかしあややは恐怖に対しそうする事もできず恐怖社会に戻っていく……なんだか絶望的な
852 ライア@参加 多分、「逃げる事」と表現しているのも一因
851 梶五日@参加 社会に属する側からすると、『そんな物知ったことか』と言うスタンスを取る相手って怖いでしょうね
850 生煮え@見学 こういうディスカッションから生まれる発想というのもありますからね
849 かぼちゃ@参加 逆に、誰もそれを考えられない程統制されているとなればそれも恐怖でしょうか?
848 名無し かつての圧政に苦しむ農民たちも,逃亡という手段で抗議するということはあったわけだし。
847 かぼちゃ@参加 そんな社会だと定番は革命や反抗、そうすると最後のはたての行動はその理に適っているのかもしれません
846 K.M ふむふむ。
845 名無しZ@参加 書く前に、今思い浮かんだ社会システムへの恐怖を明確に頭に残しておけば、違ったものが書けたかも……
844 名無し 登場人妖の感じる恐怖と,読者的な視点から見た場合の恐怖とはまた次元が違うからね。
843 梶五日@参加 ある意味では同調圧力的な恐怖
842 baka@参加 恐怖はこの社会に普通に暮らしているあややの脳が麻痺しているところかしら
841 名無しZ@参加 >>838天狗というか、自然と形作られて定着してしまった社会やシステムへの恐怖、みたいなイメージがちょこっとありました
840 かぼちゃ@参加 逆に考えると、そこまで縛る、ないし引きつけるものがあるのではと想像していました
839 かぼちゃ@参加 一つ感じたのは、ここまでの環境でも天狗は新聞を作る、また、射命丸は逃げようとも思わない
838 ライア@参加 この話の中で、天狗の恐ろしさって何処に有るのだろう
837 生煮え@見学 名無しZさんとしても、時間さえ許すならもっとしっかり書き込みたいお話だったんじゃないかと思いますが
836 名無しZ@参加 ひねり潰す力、そういうのを感じさせる作りにするにはどうすればいいでしょうかね、勢いでごまかせるタイプのストーリーでもないし
835 K.M 文は逃げるという選択肢を思いつきもしなかったんですよね。恐怖に立ち向かっていた筈が実際には恐怖に雁字搦めにされて視野狭窄だったのかと。 恐怖という存在の恐ろしさを感じた気がしたのですが。
834 かぼちゃ@参加 現状だとやはり天狗はそう言う環境だ、で止まってしまっている感はあります
833 かぼちゃ@参加 ヘビーなテーマはある種反感ないし「こうすればいいのに」という感情を招くと思いますし、それをひねり潰す力が作品に必要だと思いますが
832 名無しZ@参加 これの次に思い浮かんだ、ゴキブリに恐怖する話を書けばよかった、まぁこっちのほうが書いてて面白そうだから書いたのですけど
831 生煮え@見学 それを感じながらも、上手く纏めてあるように思えました
830 名無し それはまあ慣れみたいなものでしょうから。
829 かぼちゃ@参加 大きいでしょうね
828 名無しZ@参加 やっぱりみなさんの講評を読んで振り返ってみて、このストーリーを選んだ時点で失敗だったなぁと
827 生煮え@見学 読みながら思ったのは、40分で書くには話が大きすぎたんだろうなと
826 名無し むしろ最下位になることはプライドが許さんからそうなることへの恐怖とかでも良かった気が。
825 試験中 @見学 梶五日さん流だと、前半の組み立てもちょっと変えたほうがよさそうですね。
824 ふうら そんな時間ないか
823 名無しZ@参加 自分が追い抜かれる恐怖から、泥沼にはまってさらに捏造しまくるという展開にすればよかったか
822 名無し 虐められる恐怖と言われるとなんかしっくりこないかなぁ。殴る蹴るとか
821 ふうら 文がはたての新聞を破らなければならない状況(踏み絵的ななにか)ではたての真っ直ぐな目に恐怖を覚えるとか
820 かぼちゃ@参加 嫌ならやめた。と逃げられる程度の恐怖だと、やはり怖さは薄れると思います
819 baka@参加 >梶五日さん おお、それならしっくりいきそうですね
818 K.M 恐怖には種類があり鮮度もある、と
817 かぼちゃ@参加 そこもやはり恐怖の色が薄いのでしょうか
816 梶五日@参加 はたてに追い抜かれるんじゃないか、自分を超えてしまうんじゃないか、という恐怖に仕立てるのもアリかも
815 かぼちゃ@参加 最後の「逃げる」も、そこまで散々作品が煽ってきた上で出てくるとなると、軽いというかちぐはぐさは有るかもしれません
814 ライア@参加 恐怖を受けるべきは文だったか
813 名無しZ@参加 はたてから文を意識する理由が必要でしたか……
812 試験中 @見学 そういうのがあってもよかったと思います。
811 かぼちゃ@参加 やや前提ありきが強いかなあとは
810 試験中 @見学 恐怖を主題にするなら、この後はたてが再起不能になりやしないか、という文の予想を匂わせたりとか。
809 名無しZ@参加 本当なら、最後から更に文も前向きになるのを書きたかったですが、時間が足りなかったですね。もっと簡単にまとめられるようにストーリーを作るべきでした
808 名無し その辺りの流れがやや不明瞭?
807 名無し というくらいの関係性の薄いはたてが,何故文に宣戦布告するのか
806 名無し >直接の面識があるわけではないが、彼女は少し知っている。
805 名無し あと,作中設定として,
804 ふうら 最後の文の効果で、作品全体のテーマが羨望になってますね
803 K.M 文はいつも恐怖に駆り立てられていた、という風に認識しましたが
802 ふうら これは、恐怖ももちろんあるけれど
801 梶五日@参加 文ちゃんの方で、あまりの前向きさに恐怖させるとか
800 かぼちゃ@参加 むしろ最後はそういう色が強いですね
799 生煮え@見学 40分で6kbって、凄いと思います
798 名無しZ@参加 正直、自分も恐怖というには強引だったかもと思いますね
797 baka@参加 確かに希望、だったり+の方面だったらよかったかも
796 ふうら 書き出しが良いですね。天狗社会というものを1画面内でさらっと認識させられます
795 名無し お題が恐怖だから恐怖という言葉を当てはめているけれども,何か別の感情な気がする。
794 生煮え@見学 これ読みながら、あれまだ終わらない、あれ、あれ!? ってなりましたw
793 baka@参加 誤字はともかく結構前提が突拍子もなかったのでびっくりしました。 そこまでやるかと
792 名無し これ恐怖なの? というような印象。
791 名無しZ@参加 誤字大杉でうsね、すいません
790 名無し このストーリーで「恐怖」を扱うとするにはちょっと感情のねじ込み方が強引な感もあるかな。
789 かぼちゃ@参加 なので、新聞大会の敗者は厳しい目に会うとは把握できます
788 生煮え@見学 00:02まで
787 K.M 気になった個所 「仲には」「マウケ」「来るもなかったか、。」「資源時間」
786 名無しZ@参加 ぶっちゃけ時間に対して内容が大きすぎて、超駆け足で書いた気がします
785 名無し ここが引っ掛かった感。破り捨てられるをうける主語が浮いている感じ。
784 試験中 @見学 恐怖というか、希望に満ちている。
783 かぼちゃ@参加 これは逆に前提を書き込んである感じですね
782 名無し >一人の天狗を、複数が寄ってたかって殴り蹴り、子供ともいうべき新聞を目の前で破り捨てられる。
781 ふうら ごめんなさい、うそです。
780 ふうら よーし!くそつまらなかったです!
778 名無しZ@参加 さぁ、どれだけ私の豆腐メンタルをブレイクできるかなチェキラ!
777 かぼちゃ@参加 立ち向かうか、逃げるか 名無しZ氏