「ん、誰かいるのかい?」
「すみません、起こしてしまいましたか」
妖怪の山のふもと、川岸で眠っていた洩矢諏訪子の顔を、女性の影が覆った。
諏訪子はその顔に見覚えが有ると感じ、身体を起こして向き直る。
「ああ、誰かと思えばいつぞやの」
「お久しぶりです」
諏訪子の傍らに立っていた永江衣玖は帽子を取り、深々と一礼した。
「丁度良かった、貴女に聞きたい事が有りまして」
衣玖は懐から一枚の紙を取り出して諏訪子の前に出した。少し古いその紙には、八坂神奈子が守矢神社に人間を連れて来る装置を建設しているという文章が書かれていた。
「鴉天狗の新聞で、守矢神社の神様が妖怪の山に里の人間を運搬するという計画と、その為の大きな籠を見まして」
「ああ、ロープウェイの事?」
「恐らくその事です。よくあのような想像もつかない様な計画を実行に移しましたね」
「想像もつかない事だから、だよ」
諏訪子は質問される事を嬉しそうに、跳ね上がって帽子をかぶり直す。
「この数百年で神と人の関係は変わった。人は神を信じ神は人に与えて来たけれど、今や人は神の力を信じなくなった。
それなら神様のするべき事は何か」
鴉天狗の新聞を指さして、諏訪子はニヤリと笑う。
「神の力と神様を結び付けてやれば良い。人間に出来ない事を神の力で行ったという事を、神様自身が証明するんだ」
「なるほど、それでこのろーぷうぇいという物を創っているのですか」
「そういう事。人間達はどんどん強くなって行くんだから、神様のそれに合わせて変わって行かないと、置いて行かれるばかりさ」
「ああ、これで合点がいきました」
衣玖は、わざとらしく手の平をポンと叩いた。
「以前感じた貴女の自由さの基が何なのかと考えて居ましたが、貴女の考えの自由さに有ったのですね」
「頭の固い連中が意地になって消えていくのを沢山見て来てるからさね」
「それで変わろうと思い立ったのですか、凄い事です」
二人は同時に苦笑する。
「それじゃあ、あんたは何も変化を望まないって言うのかい」
心の底から興味深そうに、諏訪子は手を組んで衣玖に尋ねる。
「いいえ。私達にも人並みの欲は有りますので、時には神様を拝みたくなる時も有りますよ」
「素直だねえ」
「神様を前に、嘘を吐く事なんて出来ませんから」
「ほう、なら私からの質問にも答えてもらって良いかい?」
「なんなりと」
諏訪子は、起きた時からの違和感を突きつける。
「羽衣を纏っていないのは、羽衣伝説の再来かい?」
衣玖は、その象徴とも呼べる緋色の羽衣を、身に着けていなかった。
「ええ、そうです」
「随分俗っぽくなったねえ、確かあまり好む天女は居ないって聞いたけれど」
「取って食う訳ではありません、ただの興味本位です。それに」
衣玖は、微笑みながら服の裾から布のような物を覗かせる。
「本物はちゃんと持っていますから」
「ははは、大した天女だ」
「それでは、私はこれで」
衣玖は一礼すると、歩いて川を離れて行った。
「偽物だったか、それじゃあ面白い事は無さそうだね、残念」
諏訪子は、帽子の下に隠れた布の感触を確かめながら、ため息を吐いた。
お題:永江衣玖 洩矢諏訪子
時間:1時間くらい
ライア
●『たまには歩くのも悪くない』 ライア氏
【司会】かじつ (2015-10-24 23:04:42)
14分まで,ね。
百円玉@参加 (2015-10-24 23:05:02)
これは「羽衣伝説」になぞらえたオチなのです?
K.M (2015-10-24 23:05:16)
お疲れ様でした
めるめるめるめ(不参加観戦 (2015-10-24 23:05:32)
掌編として纏まりがよかったです、オチの捻り具合とかね
すーふぇー (2015-10-24 23:05:42)
最初に歩いていることを明示してくれたら、もっとよかったかなって。 この話好きですよ、わたし。
ライア@参加 (2015-10-24 23:05:43)
羽衣伝説とか求聞口授とかいろいろ
【司会】かじつ (2015-10-24 23:06:04)
諏訪子様残念でしたね
K.M (2015-10-24 23:06:17)
「歩くのも悪くない」というのは衣玖さん視点?
すーふぇー (2015-10-24 23:06:19)
あれ、なんで羽衣的なオチになるんだろ、って思って、題名みて初めてわかった鳥がここに
蛆 (2015-10-24 23:06:21)
題名が、内容とちょっと結び付かなかった。ウン、最後のほうで確かに衣玖さん歩いてるんだけどさ。
ライア@参加 (2015-10-24 23:06:54)
衣玖さんもそうだけど、諏訪子さまの視点でもありますね
すーふぇー (2015-10-24 23:06:56)
最初に、「珍しく地面に立っている」的な文章がちょっとあるだけで、ああー、ってなったと思うのだ。
めるめるめるめ(不参加観戦 (2015-10-24 23:07:05)
なるほど
ライア@参加 (2015-10-24 23:07:28)
諏訪子の神様論は「歩く」事を意識させてます
【司会】かじつ (2015-10-24 23:07:39)
ううん
すーふぇー (2015-10-24 23:07:49)
でも、やっぱり綺麗にまとまってますよね。 そこ以外は、あんまり違和感なかったかな。個人的には。
桃衣@参加 (2015-10-24 23:07:55)
私はこれはちょっともにゃったかな。話の筋がなんだったのかいまいち理解できていないので。これは衣玖さんと諏訪子の化かしあいだったのです?
【司会】かじつ (2015-10-24 23:07:56)
Spheくんの言うところの「珍しく」というのは誰から見てですか? 諏訪子ですか?
すーふぇー (2015-10-24 23:08:42)
諏訪子が衣玖を、じゃないかな。 と思ったがよく考えたら、諏訪子は飛べないはずだと思ってるんか。
【司会】かじつ (2015-10-24 23:09:06)
ですよね。だとすれば地の文でも「珍しく」と出るのはちょっと違うかなと。
すーふぇー (2015-10-24 23:09:08)
珍しく だとアカンねぇ。 歩いている姿はあまり見ない とかにしとけばいいのか。
かぼちゃ (2015-10-24 23:09:36)
僕も歩くって事と落ちが上手く飲み込めていない感じで
蛆 (2015-10-24 23:10:28)
諏訪子の帽子の下に隠れた布は一体誰のなんですかね(妄
めるめるめるめ(不参加観戦 (2015-10-24 23:10:44)
口授のあれじゃないですかね
すーふぇー (2015-10-24 23:10:58)
羽衣伝説を知ってるかどうかに、読後感は左右されそうね。
すーふぇー (2015-10-24 23:11:10)
それを説明として作中にいれるかどうかは、難しい判断だけど。
めるめるめるめ(不参加観戦 (2015-10-24 23:11:11)
天女がわざと羽衣を置き忘れて云々
あめの (2015-10-24 23:11:16)
私も実を言うとあまりわかってない。たぶん羽衣伝説をよくわかってないから
【司会】かじつ (2015-10-24 23:11:17)
口授の記載をピンと来たかどうかでも左右されるかな
かぼちゃ (2015-10-24 23:11:19)
婚活と羽衣はわかりますが
すーふぇー (2015-10-24 23:11:27)
羽衣がないと空飛べない >天女
あめの (2015-10-24 23:11:48)
そういうことですか! >羽衣がないと空飛べない >天女
蛆 (2015-10-24 23:11:52)
概要は知っているけれど、「歩く」と結び付かないのは私の知識不足?
ライア@参加 (2015-10-24 23:11:58)
羽衣が無いと飛べない→衣玖は羽衣を(見た目には)付けていない
K.M (2015-10-24 23:12:21)
飛べない→移動手段は歩く
蛆 (2015-10-24 23:13:07)
衣玖さんが諏訪子に羽衣を取られた可能性も微レ存。。。?
桃衣@参加 (2015-10-24 23:13:12)
やはり、いまだに衣玖と諏訪子の目的が分からないのでもにゃる。
かぼちゃ (2015-10-24 23:13:25)
飛べないはそれでもピンとこない感じです
すーふぇー (2015-10-24 23:13:27)
その意味で、衣玖が地面に足つけてるのは、ストーリー上非常に重要なので、冒頭で明示ほしかったかなと。
かぼちゃ (2015-10-24 23:13:46)
天界に帰れないならわかりますが飛べないというイメージは前提としてはないかなと
すーふぇー (2015-10-24 23:13:50)
諏訪子が、羽衣パクってたけど、それは偽物だったよ、って話よね。
ライア@参加 (2015-10-24 23:13:58)
衣玖さんは「立っていた」のです
めるめるめるめ(不参加観戦 (2015-10-24 23:13:59)
目的は特になさそうな
蛆 (2015-10-24 23:13:59)
成程そうして改めて読むとこの作品面白い
【司会】かじつ (2015-10-24 23:14:01)
お時間ですね?
蛆 (2015-10-24 23:14:08)
おっと14分でございますよと。
【司会】かじつ (2015-10-24 23:14:09)
お疲れ様でした。