竹林に乾いた風が吹く。笹がざらざらと鳴いて、黄土に枯れた葉をそちこちに散らす。
幾枚かの枯葉が私の体に触れるのを感じる。触れて、それから落ちない。自分も敢えて落とそうと思わない。
何だかそんな気力が湧かない。
立冬の時期になると、どうにも物事の果敢無さというものが、五感を伝って体に沁むようで厭だ。マアお化けは死ななきゃ病気も何も無いんだから、そんなしみたれた心地を覚えたところで、別にどうという話でもないのだけれど。
どうも――ひと恋しいんだろうか。
お化けのくせに。そう胸の内で独り言ちてみる。
けれど、お化けだ妖怪だと言って、この郷に居れば精神的な面は人間と大差無いのかも知れない。先達ての小人が起こした異変で、竹林を訪れた人間にちょっかいを出した事を思い出してみる。そうしてコテンパンにやられて、たいそう怖い思いをした。そういえばその時だ。彼女はどうも、私が退治されたがって見えたような事を言っていた。その時は何やら気も高ぶっていたし、サテどんな気持ちで居たのだかもうよく覚えていないけれど。
そういえば晩夏頃だったろうか。
一枚の枯葉が、丁度私の濡れた鼻先をかすめて、少しく体がびくつく。閉じていた目を更にきつく瞑ったが、そんな事で生理現象は収まりやしない。ぐっともたげた首を勢い、伏す地面へ叩き付けるようにして――。
「へくちぃ」
――鼻はすっきり。けれど伏した体の、やや温もりを得た枯れ草につつまれた、胸やお腹の辺りが今度はすっきりしなくなっている。
(……姫にでも会いに行ってみようかな)
そう思い立ち、四足を立たせて湖のある方角を向く。すうと腹下を通る秋風が、やや冷たい。立冬という言葉から解る通り、もう寒くなり始めている。風を切って走るには、そろそろ面白くない季節。
「あーあ。何か面白い事、無いかなぁ」
敢えて口に出して空元気を装ってみる。そうすれば、少しは、動こうかなという気分にもなれるものだ。
◇◇◇◇◇◇
「オゥ……まじか」
山間の気候を舐めていたわけでもなければ、時節柄まだ早かろうと思っていたのだけれど。
着いた霧の湖には一面薄氷が張り、ひやりとした冷気のもやをまとっている。
ちょいと前足で水面を突いてみると、ぽきりと小さな音を立てて氷にひびが入る。多分本当に薄皮一枚程度の氷だから、もう少しもして陽も当たれば溶けて無くなるんだろう。見ればもう少し沖の方は水面が泳いでいるから、朝方に少し張った程度なんだ。この程度、姫なら寒いとも冷たいとも思わないだろう。なんたってわかさぎで妖怪で。
けれど私は項垂れて、呼び掛けも言伝ても残さずに、来た道をとぼとぼ返した。
これだから冬が近付くのは嫌なのだ。
面白い事が何もない。普段は絶えず波立ち動く水面でさえ、こんな風に澄まして大人しくなってしまう。
そうすると触れるのさえ、呼び掛けるのさえ躊躇われてしまう。こんなにも薄い氷一枚を前に。いや、こんなにも薄く、あるのかないのかさえ不明瞭な、果敢無い気の満ちた季節だから――。
ややもすると、周りの何もかもが壊れてしまいそうで嫌なのだ。
「あら貴女。ニホンオオカミなのに一疋で居るだなんて珍しいわね」
ふと声をかけられて見ると、ひとりの少女が立っていた。着ている衣服も白ければ、肌も透き通るように白い。
「……誰、貴女」
「冬の妖怪」
その少女は、静かな微笑みを私に向けてそう言った。正直、嫌がらせか何かかと思った。
「狼というのは群れで生活するものではないのかしら。それとも冬に備えて食料探しに迷っちゃったとか」
「御生憎様、私はいつでも一疋狼よ」
「ふうん。……一疋狼を自称するって、あまりサマにならないわね」
「……そうかも」
言われてちょっと恥かしくなり顔を背けると、冬の妖怪は音もなく私の隣へと近寄ってきた。
私の冬毛を通してさえ、ひやりとした寒さを感じる。
「それにねえ。一疋狼にしては、寂しげに見えるわ」
「べ、別に。そんな事無いもん。……ただねえ」
空を見上げる。秋空は、高く遠い。
「秋から冬にかけての季節って厭なのよ。寒いし、面白くない」
そう言った後で、冬の妖怪を前にした発言ではなかったなと思い彼女を見る。
先程と変わらず静かな微笑みをたたえる彼女を見て、
●『湯豆腐の美味しい季節』 蛆氏
蛆 (2015-10-24 23:36:22)
あやまるしかない。
【司会】かじつ (2015-10-24 23:36:25)
46分ですね。
桃衣@参加 (2015-10-24 23:36:37)
このオチに わたしの怒りが 有頂天
百円玉@参加 (2015-10-24 23:36:58)
最初、この一人称はだれだっけ、ってなった
めるめるめるめ(不参加観戦 (2015-10-24 23:37:01)
これも最初で躓いた感じで
【司会】かじつ (2015-10-24 23:37:03)
パクられた(笑)
【司会】かじつ (2015-10-24 23:37:13)
これねー
すーふぇー (2015-10-24 23:37:15)
これも冒頭誰かわからんかったかなぁ。 お化けというから、死んでるやつ、って想定で読み始めてたし。
百円玉@参加 (2015-10-24 23:37:20)
あとがき読んで、そうか影狼さん
【司会】かじつ (2015-10-24 23:37:28)
レティさんもまた難しいキャラのひとりなのかも知れないって思いましたよ
めるめるめるめ(不参加観戦 (2015-10-24 23:37:29)
お化けって出てるから誰だろうって
すーふぇー (2015-10-24 23:37:30)
設定把握が甘いのかもしれないけど、お化けって言ってるんだっけ?
K.M (2015-10-24 23:37:53)
「果敢無さ」が読めなかった はかなさ、か
かぼちゃ (2015-10-24 23:37:56)
確かにお題なかったら誰かを特定しにくい気はします
K.M (2015-10-24 23:38:29)
妖怪もお化けの一種では? お化け屋敷にろくろ首とかいますし
かぼちゃ (2015-10-24 23:38:41)
でもこれはしょうがないレベルかなとも
かぼちゃ (2015-10-24 23:39:05)
あんまりやってもわざとらしくなるので
すーふぇー (2015-10-24 23:39:26)
最初のところに、しれっと 遠吠えでもしたくなる、とかそういう間接的描写を入れるだけで
蛆 (2015-10-24 23:39:27)
まあお化けも妖怪も同じものということでどうかひとつ。
めるめるめるめ(不参加観戦 (2015-10-24 23:39:28)
誰だろうとあとがきまでスクロールさせて、四足を立たせてのあたりでなるほどと
すーふぇー (2015-10-24 23:39:31)
ぐっと入りやすくなったと思う。
あめの (2015-10-24 23:39:33)
私としては早い内に「私」が誰なのか、わかりやすくして欲しいところ
すーふぇー (2015-10-24 23:39:50)
東方キャラでは、お化けだと、幽霊とかのイメージしちゃうからねぇ。 現実は入っているとしても。
かぼちゃ (2015-10-24 23:40:44)
竹林で人間を襲った→影狼しかいないとは思えますし、濡れた鼻も獣な感じ
K.M (2015-10-24 23:40:46)
小人の異変+竹林で早々に特定は可能ですね
蛆 (2015-10-24 23:40:47)
昔からそうだけれど、一人称だと名前を出すタイミングが判らない。一人称で自分の事名前で呼ばないだろうし。。。
かぼちゃ (2015-10-24 23:41:15)
僕は現状でいいかなあという意見です
めるめるめるめ(不参加観戦 (2015-10-24 23:41:16)
そこはなんとか工夫ですよ
蛆 (2015-10-24 23:41:28)
そんなわけで、キャラクタの特徴をちりばめて理解して貰う方向で書く。
すーふぇー (2015-10-24 23:41:33)
必ずしも、名前を出さなくてもいいと思います。
めるめるめるめ(不参加観戦 (2015-10-24 23:41:55)
いや、お化け、がなかったらすんなり呑み込めたと
すーふぇー (2015-10-24 23:41:56)
ただ、かなりわかりやすく、特徴を明示しないとわかってくれないかな、と。
めるめるめるめ(不参加観戦 (2015-10-24 23:42:14)
すーふぇー (2015-10-24 23:39:50) 東方キャラでは、お化けだと、幽霊とかのイメージしちゃうからねぇ。 現実は入っているとしても。
百円玉@参加 (2015-10-24 23:42:17)
毛深いところとか
めるめるめるめ(不参加観戦 (2015-10-24 23:42:19)
これ
【司会】かじつ (2015-10-24 23:42:19)
これは影狼さんを示唆する情報を出すのが遅いわけではないので
【司会】かじつ (2015-10-24 23:42:32)
やはり「お化け」という単語で攪乱してしまった感がありますかねぇ
蛆 (2015-10-24 23:43:06)
幻想郷ならではの言葉の定義を意識できてなかったナァ
すーふぇー (2015-10-24 23:43:09)
狼の姿である、というくらい言うとよかったのかな。
すーふぇー (2015-10-24 23:43:49)
あとは、この後の展開が気になります。
K.M (2015-10-24 23:43:55)
「お化けは死なない 病気もなんにもない」 このフレーズ前提としたらお化けという単語は欠かせないような
かぼちゃ (2015-10-24 23:44:02)
これはけっこう書かないと終わらない予感は有ります
K.M (2015-10-24 23:44:12)
まぁ、そもそもチョイスするなとなるやもしれませんが
【司会】かじつ (2015-10-24 23:44:15)
湯豆腐出すまで書くのが大変そう
めるめるめるめ(不参加観戦 (2015-10-24 23:44:18)
特に狙いがなければ、露骨なくらい特徴は出してもいいと思いますよ
百円玉@参加 (2015-10-24 23:44:19)
まだちょっとだけ続くんじゃ
めるめるめるめ(不参加観戦 (2015-10-24 23:44:27)
わざとらしいのはよくないですが
すーふぇー (2015-10-24 23:44:30)
文章の雰囲気と、冬の閑散とした雰囲気とはマッチしている気がするので、展開していったらおもしろいかなー、と。
あめの (2015-10-24 23:44:32)
ちょっとだけで済めばいいけどね!”
かぼちゃ (2015-10-24 23:44:41)
一人は寂しい→そんなことはないさ、の自問自答が続いているだけで話がまだ動くかどうかの段階なので
すーふぇー (2015-10-24 23:44:47)
これは、たぶんあと3倍くらいにはなりそう。
【司会】かじつ (2015-10-24 23:44:49)
いきなり冒頭で影狼さんの鼻先にアツアツの湯豆腐が叩きつけられているくらいの展開のスピーディーさでもよかったのかも知れません
かぼちゃ (2015-10-24 23:44:53)
これはちょっとやそっとの時間では終わらなそう
蛆 (2015-10-24 23:45:00)
テーマ選定もよくなかったカナ
すーふぇー (2015-10-24 23:45:09)
かじつさんのそれは、普通に考えてギャグですよね。
百円玉@参加 (2015-10-24 23:45:16)
アチィ!
【司会】かじつ (2015-10-24 23:45:16)
悲劇です
めるめるめるめ(不参加観戦 (2015-10-24 23:45:24)
ちょっと感じたのが、ここまできてわかさぎ姫出ないんだって
すーふぇー (2015-10-24 23:45:24)
筆の速度を3倍にすればいい >テーマ
K.M (2015-10-24 23:45:26)
ほとばしるバラエティ番組臭>アツアツの湯豆腐が叩きつけられて
【司会】かじつ (2015-10-24 23:45:41)
わかさぎ姫と会えませんでしたね
すーふぇー (2015-10-24 23:45:44)
それは出ないほうがいいんじゃないかな。 いつもの、とおもったけど、の非日常という話だろうし。
百円玉@参加 (2015-10-24 23:45:48)
薄氷の表現が素敵でした
蛆 (2015-10-24 23:45:49)
わかさぎ姫は犠牲になったのだ
蛆 (2015-10-24 23:45:55)
あ、46分
【司会】かじつ (2015-10-24 23:45:59)
お時間ですねぇ。
【司会】かじつ (2015-10-24 23:46:03)
お疲れ様でした。
めるめるめるめ(不参加観戦 (2015-10-24 23:46:03)
いや、なんていうか
百円玉@参加 (2015-10-24 23:46:08)
おつかれさまでした
蛆 (2015-10-24 23:46:10)
ありがとうございましたぁぁぁん
すーふぇー (2015-10-24 23:46:11)
お疲れ様でしたー
あめの (2015-10-24 23:46:12)
味のある文章書かれるなと思いました
桃衣@参加 (2015-10-24 23:46:14)
お疲れさまでした。
あめの (2015-10-24 23:46:15)
お疲れ様です
K.M (2015-10-24 23:46:20)
お疲れ様でした
ライア@参加 (2015-10-24 23:46:26)
お疲れ様でした
めるめるめるめ(不参加観戦 (2015-10-24 23:46:30)
不思議な力が働いて、わかさぎ姫が出ないことになった感が
かぼちゃ (2015-10-24 23:46:33)
草の根ネットワークの面々と会って解決するなら寂しくないから姫以外のキャラで動かす方がよろしそう
めるめるめるめ(不参加観戦 (2015-10-24 23:46:36)
おつかれさまです
【司会】かじつ (2015-10-24 23:46:37)
そんなわけで,
【司会】かじつ (2015-10-24 23:46:43)
ここからはフリートークのお時間です。
すーふぇー (2015-10-24 23:46:45)
味のある文章なので、終わりまであると、冬のいい話になりそう。