「―――――― っ!?」
悲鳴に満ちた部屋の中で、あたいは床に爪を立てた。
固く締められた出口からは逃げることも叶わず、嘆きだけがわずかに壁の隙間から外に零れるだけ。そんな絶望に満ちた世界で、
「橙さん」
とうとう、あたいのすぐ前にいた妖猫が呼ばれた。瞬間、俯いて床に座っていた橙の身体が大きく伸び、金属製の耳飾りも跳ね上がった。そして立ち上がったまま救いを求めるように周囲を見渡す。
けれどね、あたいは目をそらすことしかできなかったよ。だってそうだろう? 呼ばれちまったら、あたいたちは救えない。つまりは……おしまいなのさ。
「嫌! 嫌ぁっ! たすけ、助けて藍様ぁ!」
しかし、その助けを求めた藍っていう狐に抱え上げられたまま奥の部屋へ入っていったんだ。
そして……
「――っ!!」
耳をつんざく、言葉にすらなっていない悲鳴が、奥の部屋から聞こえてくるんだよ。橙のときだけじゃない。
連れ去られた妖獣たちは、例外なくこの世の物とは思えない悲鳴を上げてから。
「……」
ぱったりと、静かになる。
それは何かが終わったことを示すと同時に、地獄の始まりを意味する。
「えーっと、次……火焔猫 燐さん」
ああ、とうとう、あたいの番……か。
あたいは長椅子から重い身体を何とか持ち上げ、頭を左右に振る。
軽い眩暈に襲われたからだ。
この頭痛もきっと、仲間たちの恐怖に当てられたんだろう。
仕方ない、覚悟を決めて……決めて……
「……や、だ」
けれど、一歩がでないんだ。
言うことを聞かないといけないっていうのはわかってる。
さとり様の指示でここまで来たんだ、拒否するなんてありえない。
でもね、無理なんだよ。
あたいの身体に、ものすごい寒気が走って。
言うことを聞いてくれないんだよ。
だって、あの白い部屋は……
「い、嫌だ! やっぱり駄目だよ! 助けて、誰か助けておくれよぉ!」
怖いんだ。
怖くてたまらないんだよ。
あたいには無理だって、誰か助けてって訴えたよ。
「……」
それでもさっきの橙の時と一緒だ。
みんな目を合わせようともしない。
いつか来る地獄を少しでも遅らせるために、口を、爪を、納め続けるんだ。
それでも唯一、あたいの目をまっすぐ見てくれるヤツが居る。
おくうだ!
先に入ったはずのおくうが、壁に寄り添っていた。ああ、無事に帰ってきたんだね。おくぅ……
「ダイジョウブダヨ……オリン……スグオワルカラ……、ホントウニスグオワルカラ」
あたいは、伸ばした手を途中で止めた。
そこにはもう、あたいの知るおくうがいなかったから。
ただ、同じ地獄に誘おうとする亡者しかいなかったから。
その亡者が、延ばしかけたあたいの腕を掴んで、奧へと、奧へと……ひきずっていくんだ。
「お、おくう! やめておくれ! 正気に戻っておくれよぉ!」
あたいがおくうの力に勝てる筈なんてない。
あたいがおくうを傷つけられる筈なんてない。
だからあたいにはもう、抵抗すら許されなくて。
あたいはとうとう、地獄の部屋へと連れてこられた。先に入っていた、さとり様の横に座らせられ、刺激臭だらけの空間でおくうに抑え込まれる。
そうやって抵抗すら封じられたあたいの目の前には、赤と青が混ざり合った化け物が微笑んでいた。
あたいを内側から書き換える、薬物を握りしめて……
「か、身体は自由にできても! あたいの心までは自由にさせない。絶対に、絶対にぃぃぃ」
そして、とうとう、それがあたいの腕に差し込まれて……
「うにゃぁぁぁっ!!」
激痛と共に、あたいに中で冷たい何かが入り込んでいく。
ああ、あたい……
あたいの中に、流し込まれて……
「おわったわ」
目の前の白衣を着た悪魔が、注射器を引き抜きそうつぶやいたとき。
すっと、涙が頬を伝った。
ああ、本当に、おわったんだなって。
「……さとり様、あたい汚されちゃいました」
体の中に得体のしれないものを流し込まれた。
あたいの中の敗北感を受け取ってくれたのか、さとり様が近寄ってきて、あたいの頭を撫でてくれて。
「単なる注射で妙な妄想垂れ流すんじゃあ~り~ま~せ~ん!!」
「う、うにゃぁっ!?」
瞬間、その手が滑り。
こめかみをぐりぐりしだした。
「妖獣にかかる風邪の治療だというのに、あなたという猫は!」
「……ちがいます」
「えっ!?」
く、くぅ。
さとり様のいうことはもっともだよ!
でも、でもね! あたいにだって引けない部分はあるんだ!
「何が違うっていうのかしら!」
「あたい、化け猫じゃなくて、火車です♪」
「……」
「……」
にこっ♪
「お~~り~~ん~~~」
「ふ、ふにゃあああああああっ!」
教訓、猫も鳴かねばうたれまい。
ずぅ(、、さん 『流行最前線』
ライア(司会代行 (2013-06-19 23:11:15)
どうぞ
ライア(司会代行 (2013-06-19 23:12:12)
(なぜか橙さんでネタが分かった不思議
寝子 (2013-06-19 23:12:31)
あたいの心までは自由にできないで声出た
鞘の花 (2013-06-19 23:12:35)
小さいころのトラウマが呼び起こされました……
K.M (2013-06-19 23:13:02)
子供かっ!? とツッコミたくなりました
ライア(司会代行 (2013-06-19 23:13:19)
おくうはどうしてこうなった
名無しさんB(見学) (2013-06-19 23:13:36)
ほのぼのでいいネタだと思います
かぼちゃ(見) (2013-06-19 23:13:46)
定番のネタ
寝子 (2013-06-19 23:14:02)
30分でこの量を書けるってすごいですね
K.M (2013-06-19 23:14:05)
おくうの下りは一文字空け忘れです?
かぼちゃ(見) (2013-06-19 23:14:41)
なので捻りがあったほうがいいかもとは思いました
名無しさんB(見学) (2013-06-19 23:15:03)
ちょっと気に掛かったのは
かぼちゃ(見) (2013-06-19 23:15:12)
密度はあるんですけど、どうしても落ちがわかる系統なので
ずぅ(、、 (2013-06-19 23:15:35)
うんうん
ずぅ(、、 (2013-06-19 23:15:49)
時間がないから改行とかそういうのは
ずぅ(、、 (2013-06-19 23:15:53)
ほとんど気にしてない
名無しさんB(見学) (2013-06-19 23:16:15)
あたい、がお燐だと確定するまでに、そこそこかかるので
名無しさんB(見学) (2013-06-19 23:16:48)
その間、宙ぶらりんな感じで話に入り込めなかった感じです
寝子 (2013-06-19 23:17:21)
いっそ最初から注射であることを明示しても良かった気はします
ずぅ(、、 (2013-06-19 23:17:33)
病院、とかそういうのだと早めにネタがわかっちゃうからね(、、 王道ネタとはいっても使い過ぎにご注意
かぼちゃ(見) (2013-06-19 23:18:02)
あたいはお燐は、最初に爪を立てるとあるので類推出来るかとは思いました
ずぅ(、、 (2013-06-19 23:18:25)
んむー、チルノと小町しかいないからね、あたいシリーズ
ずぅ(、、 (2013-06-19 23:18:40)
3択ならおりんってわかるかなと
かぼちゃ(見) (2013-06-19 23:18:55)
最初に本気で怖がってるだろう(と見える)橙を書く必要もあるので、私はこれでいいかなとは
鞘の花 (2013-06-19 23:18:55)
最初はチルノかなーと思ってました。あさはか。
K.M (2013-06-19 23:19:07)
予防接種じゃなくて治療(=既に発症済み)ならば症状の描写があった方が……いや、自分が予防接種と勝手にとらえてただけか
ライア(司会代行 (2013-06-19 23:19:08)
割とギリギリのライン
かぼちゃ(見) (2013-06-19 23:20:05)
病気で注射ってのは私も引っかかりました
K.M (2013-06-19 23:20:09)
火車は妖獣の一種扱い……とは違うのかな?
ずぅ(、、 (2013-06-19 23:20:13)
2次だと人称簡単に変える人もいるからねぇ、一概にはいえないか
名無しさんB(見学) (2013-06-19 23:20:34)
床に爪を立てた。は読み落としてました
ずぅ(、、 (2013-06-19 23:20:36)
妖獣っぽい『あたい』キャラで
かぼちゃ(見) (2013-06-19 23:20:37)
注射するほどの重体には見えない。いっそ予防接種にした方がいいとは思います
ずぅ(、、 (2013-06-19 23:20:52)
お燐と察してほしいとおもって付け足したやつですねそれ
ずぅ(、、 (2013-06-19 23:21:27)
鳥インフルエンザ的な
ずぅ(、、 (2013-06-19 23:21:37)
風邪をイメージして作ってみたわけです
ずぅ(、、 (2013-06-19 23:21:49)
妖獣いんふる?
かぼちゃ(見) (2013-06-19 23:22:08)
これってお燐は本気で怖がってるのか、それとも余裕でふざけているのか
かぼちゃ(見) (2013-06-19 23:22:33)
それがわかりにくい感じがあって、注射をするほどの病人というのがそこにもあるかもしれません
ずぅ(、、 (2013-06-19 23:22:55)
本当は無理やり連れてきたさとりに対するあてつけというのを前面に出したかったんですが
ずぅ(、、 (2013-06-19 23:22:58)
そこまでかけませんでした
ライア(司会代行 (2013-06-19 23:23:29)
おっと、そろそろ時間だ
かぼちゃ(見) (2013-06-19 23:23:39)
ラストと、密度のある一人称、そこからふざけているとは見えるんですが、そうすると密度や最後のふざけかたが病気にひっかかる
K.M (2013-06-19 23:23:44)
「火車は妖獣じゃないからそもそも注射する必要無かった」というオチでいいのでしょうか
ライア(司会代行 (2013-06-19 23:23:47)
いったん区切りにしましょう
ずぅ(、、 (2013-06-19 23:24:05)
はいな、ありがとうございました