一日過ぎ、二日過ぎ、風邪は治る気配を見せず、慧音はついに起き上がれなくなった。
チルノが現れたのは二日目の夜だった。
ただの人助けだとチルノは言い張った。氷の妖精が瞬時に冷やすタオルは確かに便利だろう。飲み水も冷たく気持ちが良い。厚意を無下にする理由はない、と上白沢慧音は思う。
しかし、なぜ。
なぜチルノがここに来た。
チルノが自分を看病する理由が見あたらない。チルノの冷気が原因で風邪をひいたわけでもなし。彼女と懇意にしていたわけでもなし。
「いいから慧音は大人しく寝ていなって。大船に乗った気持ちでいればいいのよ」
チルノは、焦点の上手く定まらない慧音の瞳とぶつかるたびにそう言った。
慧音が起こそうとしていた身体をその細腕で押しとどめ、額のタオルを逐一取り替え、まさかお粥まで作りあげての献身だった。
三日過ぎ、四日過ぎ、ようやく熱も下がってきて、衰弱しきっていた身体を動かすのは億劫だったが、慧音はようやくまともに思考できるようにまで快復していた。
そうして気づいた。チルノは常に自分の近くにいた。いつだって寝込んでいる自分の傍らで、神妙そうな顔で見つめていた。
「なあチルノ」
目をつむったまま、呼びかける、
なに、とすぐに返事がくる。
「お前、何を企んでいる?」
身じろぎする気配を感じ取れる。目を開けてしまうと、きっとチルノは目を逸らして、はぐらかすと思った。
長い沈黙に息ができなくなったのか、チルノは言い訳するように言葉を発した。
「噂で聞いたのよ。誰かに風邪を移すと治るって話を聞いたから」
「だから?」
「慧音の風邪を治してあげようと思って」
得心がいった。
「なるほど、お前はもう一つの噂も聞いたんだな」
――馬鹿は風邪をひかない。
「馬鹿な子だ」
「あたいは馬鹿じゃない!」
笑わずにはいられない。
慧音は起き上がりチルノの頭を優しく撫でる。
「ああそうだな。お前は優しく聡い子だ」
慧音は深甚なる感謝をその眼差しに乗せ、チルノに向かってありがとうと言った。
そんなことを言われたのはきっと生まれて初めてなのだろう。チルノの頭に熱が熾り、頬まで赤く染め、チルノは立ち上がろうとして尻餅をついた。
「あ、あたい、風邪を引けたかも」
それは違うよと慧音は笑った。
ライア(司会代行 (2013-06-19 23:24:23)
どうぞー
鞘の花 (2013-06-19 23:24:45)
チルノちゃんいい子。
かぼちゃ(見) (2013-06-19 23:24:54)
これはよいワンシーン切り抜き
名無しさんB(見学) (2013-06-19 23:25:01)
ほっこりしました
K.M (2013-06-19 23:25:07)
馬鹿は風邪ひかない、を信じて風邪ひく事にトライするのが真の馬鹿という話もあるがとりあえずかわいい
ライア(司会代行 (2013-06-19 23:25:35)
風邪をひかないことを念頭に、かぜをうつしてもらって無力化してやるぞー的な?
寝子 (2013-06-19 23:26:19)
かわいければそれでいい(真理)
かぼちゃ(見) (2013-06-19 23:27:15)
風邪をうつすと治るはひっかかるかも
ずぅ(、、 (2013-06-19 23:27:35)
うん、その流れから馬鹿は風邪をひかないにもっていくのも気になった
かぼちゃ(見) (2013-06-19 23:27:54)
看病してやる優しさ、は一般論でも捉えられる感じがありますが、自分が風邪になってでも相手を治してやりたい
かぼちゃ(見) (2013-06-19 23:28:20)
そこまでの関係や性格とするにはは前もってのものがかなりないと難しいですね
ずぅ(、、 (2013-06-19 23:28:39)
そうそう、かぼちゃさんの言うように風になってでも相手を治してやりたいという流れで
ずぅ(、、 (2013-06-19 23:28:53)
なぜ馬鹿は風邪をひかないを出す必要があったのかと
名無しさんB(見学) (2013-06-19 23:28:57)
チルノが慧音にそこまでする理由が無いと
かぼちゃ(見) (2013-06-19 23:29:02)
ですね
K.M (2013-06-19 23:29:12)
『移すと治る』を『治る時移る』と勘違いしていたなら
かぼちゃ(見) (2013-06-19 23:29:29)
氷精は風邪を治すのに便利、最初にあるこれをベースに、なら人助けしよう
かぼちゃ(見) (2013-06-19 23:29:42)
これなら、このチルノは優しいでいいと思うんですが
鞘の花 (2013-06-19 23:29:51)
チルノがこの行動に至った経緯がどこかにあると良かったでしょうか。さらりとでも。
ライア(司会代行 (2013-06-19 23:30:13)
慧音とチルノは珍しい分、ちょっと分からなかったところも
K.M (2013-06-19 23:30:14)
「『馬鹿は風邪ひかない』を否定するために風邪をひこう」→「慧音が風邪をひいたらしい。よし移してもらおう」→「治るまでそばにいよう」で繋がったかな
ユナ (2013-06-19 23:30:17)
戻りました
K.M (2013-06-19 23:30:23)
おかえりなさいませ。
鞘の花 (2013-06-19 23:30:41)
おかえりなさい。
ライア(司会代行 (2013-06-19 23:30:50)
お帰りなさいませ
寝子 (2013-06-19 23:30:58)
作者の意図としては、自分が馬鹿じゃないことを証明するために風邪をもらいにきたチルノって内容のつもりでした
ずぅ(、、 (2013-06-19 23:31:02)
馬鹿は風邪をひかないネタではなく、馬鹿は風邪を知らないネタでいけばよかったんじゃないかなと
かぼちゃ(見) (2013-06-19 23:31:11)
ラストに帰結するには、この風邪を移されたら治る~が必要かとも見えますが
ずぅ(、、 (2013-06-19 23:31:25)
最後にチルノが、ところで風邪って何? とか言ってみたりとか
かぼちゃ(見) (2013-06-19 23:31:34)
感謝の言葉だけでこう真っ赤になるとするにも、やはり前提がないと急な感はあります
かぼちゃ(見) (2013-06-19 23:32:11)
そこまで感謝されたことがないのか? と思いますし、ならなんで慧音にはこんなに甲斐甲斐しい?
寝子 (2013-06-19 23:32:22)
風邪をひけたかもって最後の言葉にオチを用意したつもりでしたね
かぼちゃ(見) (2013-06-19 23:32:23)
想像は出来ますが、それは作中にあるべき点だと思いました
ずぅ(、、 (2013-06-19 23:33:07)
序盤から中盤へのつなぎはすきなんですけどねぇ
ずぅ(、、 (2013-06-19 23:33:20)
中盤から序盤で、あら? っと
ずぅ(、、 (2013-06-19 23:33:26)
じゃなくて終盤で
ライア(司会代行 (2013-06-19 23:33:26)
戻った
名無しさんB(見学) (2013-06-19 23:33:36)
最後の二行がなんか好きです
かぼちゃ(見) (2013-06-19 23:33:37)
シンプルに、風邪を治してくれる優しいチルノと感謝する慧音
かぼちゃ(見) (2013-06-19 23:34:09)
だけの方が、まとまりはいいかなと個人的には思います
ライア(司会代行 (2013-06-19 23:34:10)
展開や〆方は良かったけれど、そこに至るまでの説明が足りない感じで
かぼちゃ(見) (2013-06-19 23:34:26)
私も中盤から引っかかって、で、前半部はそのようにシンプルに見えるので
ライア(司会代行 (2013-06-19 23:34:42)
といった所でお時間
ライア(司会代行 (2013-06-19 23:35:16)
(一応10分ペースでいってます