「あれ?」
珍しいお客に、にとりは川からざぱんっと顔を出す。夜の河原なんかに誰もこないはず。なのに小さな影がちょこんっと膝を抱えて座りながら、星空を眺めていた。にとりは思わず水から上がってゆっくり近づいていき。
「ちぇ、ん?」
その少女の頭の猫耳と、腰から伸びた長い尻尾。記憶にぶつかる名前を何とか絞り出して、川から上がる。するとその音に少しだけ驚いたように橙が顔をにとりの方に向けるが、また気の抜けた顔で星空を見上げはじめた。
何をしているのか、とにとりが尋ねてみると
「藍様が近くで仕事してるからここで待ってるんだ」
何もしていない。
そんな声が返ってきた。
けれど、その声には
『何もすることがない』
そんな寂しげな響きがあった。
退屈だ、と言わんばかりにゆれる尻尾。それをにとりはしばらくじっと見つめていたが、
「よいしょ」
「わっ」
おもむろに橙の側に座り、にかっと口を横に広げて笑って見せた。そして橙が目をぱちぱちさせている間に、夜空を指差して。
「暇なら、このにとりさんがためになることを教えてあげよう。あの空の星の集まり、なんていうか知ってるかい?」
「天の川でしょ。藍様に教えてもらった。川の両岸には織姫と彦星もいるって」
バカにするな。橙はにとりを不機嫌そうに睨みつけ、ふふんっと鼻を鳴らす。
「織姫と彦星って、きっと式だね。川の水が怖くて、一年に1回しか会わないんだから」
「おお、それは面白い。私も織姫と彦星は河童以外の種族だとは思ってたけどね。河童だったら川の中で昼寝さえできるから。しっかし、式か~」
「そうだよ。式なんだ、きっと」
「でも、あんたの大好きな人はそんなに水怖がってるようにもみえなかったけど?」
にとりがそう指摘すると、橙は表情を暗くして、
「式はね、決められたことを破れないの。だから、紫様のお仕事してる時、藍様には……」
なるほど、と。にとりは察する。だから橙は今ここで待っているのだと。
藍の式に課せられた命令が解かれるまで、まるで彦星を待つ織姫のように。
少女には似つかわしくない儚げな表情をする橙の肩をにとりはとんっと叩き、
「いいじゃないか、あんたの大切な人は待ってれば来てくれるんだから」
励まされた。
そう感じが橙は、にとりの顔を改めて見た。
そうしたら、何故か……
「私が大切だと思う人は、きっと空から降りてこないんだ……、きっとそこがあの人の居場所だからさ……」
今にも泣きそうな顔が、そこにあった。
『タカヒソラ』 pys氏
復路鵜@参加 (2013-07-07 23:01:21)
尻尾ベチャ―で絨毯みたいな感じが
I・B@鉄球(司会) (2013-07-07 23:01:22)
どん!
ぴす(参加) (2013-07-07 23:01:28)
よろしぅに
ライア(文と参加) (2013-07-07 23:01:34)
きれいなおはなし
百円玉(参加) (2013-07-07 23:01:36)
こちらは切ない
I・B@鉄球(司会) (2013-07-07 23:01:37)
06分まで
這い寄る妖怪(参加) (2013-07-07 23:01:56)
俺いつ天に登ったっけ
きのせい(参加) (2013-07-07 23:02:01)
素敵
H2O(参加) (2013-07-07 23:02:05)
人間が大好きな壊れた妖怪の唄を思い出す
I・B@鉄球(司会) (2013-07-07 23:02:13)
あー、たしかに
Ministery@参加 (2013-07-07 23:02:29)
七夕ネタをよく絡めたなー
うるめ@参加 (2013-07-07 23:02:39)
あ、これ最後はにとりの台詞か……。橙のだと勘違いしていた。
生煮え(見学 (2013-07-07 23:02:41)
ああ七夕でしたね
かじつ(参加) (2013-07-07 23:02:54)
最後ってどういうこと?
復路鵜@参加 (2013-07-07 23:03:16)
あまり対象を限定しないので、むしろ想像力がかきたてられるかも>にとり
ぴす(参加) (2013-07-07 23:03:18)
まあ、死に別れの人間を思い浮かべてもよし、天狗の誰かを思い浮かべてもよし
かじつ(参加) (2013-07-07 23:03:28)
あれ 何か元ネタあるとかじゃないんだ
ぴす(参加) (2013-07-07 23:03:32)
そそ
Ministery@参加 (2013-07-07 23:03:36)
うーん、式は決められたことを破れないって、部分にもっと文量割いたほうがよかったか
復路鵜@参加 (2013-07-07 23:03:45)
(あと関係ないですが、二人が知り合った経緯をやや知りたい感じも
Ministery@参加 (2013-07-07 23:03:48)
ちょっと前半が宙ぶらりんかも
つくし (2013-07-07 23:03:54)
なんかこう、短い文章の間に認識がごちゃっとしてる感じがする・・・
かじつ(参加) (2013-07-07 23:04:08)
河童(あるいはにとり)が空を見上げて「大切だと思う人は降りてこないんだ」って言ってるから
生煮え(見学 (2013-07-07 23:04:18)
千文字が仇となってるのか
つくし (2013-07-07 23:04:19)
「何もしていない」の挿入位置なんか変・・・
かじつ(参加) (2013-07-07 23:04:26)
何か元ネタでもあって,それを知ってさえいればこのセリフがしっくりくるのかと思った。
うるめ@参加 (2013-07-07 23:04:29)
「きっと空から降りて来ない」=「藍が紫と一緒にいるから橙のところには来ない」という意味だと取ってしまった。
ぴす(参加) (2013-07-07 23:04:32)
なーるー
ぴす(参加) (2013-07-07 23:04:52)
1000文字でどこまで入るか、でやってみたからねw
うるめ@参加 (2013-07-07 23:04:57)
最初にとり視点で始まったので、「今にも泣きそうな顔が、そこにあった。」というのもにとり視点だと早合点してしまいまして。
Ministery@参加 (2013-07-07 23:04:59)
着眼点はすごく好きだなあ、私は好きよ
ぴす(参加) (2013-07-07 23:05:03)
出会いはあきらめた
つくし (2013-07-07 23:05:14)
そうそう>視点
かじつ(参加) (2013-07-07 23:05:19)
にとりの大切な人と「空から~」のセリフを示唆するというか,その基底を支える何かがないと
かぼちゃ(見) (2013-07-07 23:05:26)
出会いはこの分量なのでといのは置くとしても
かじつ(参加) (2013-07-07 23:05:26)
ラストが宙ぶらりんになる感がある
生煮え(見学 (2013-07-07 23:05:27)
綺麗で雰囲気がいいですね
かぼちゃ(見) (2013-07-07 23:05:38)
違和感があるレベルでは無いと思いました
Ministery@参加 (2013-07-07 23:05:41)
それだけに説明に終始している部分がもったいない
つくし (2013-07-07 23:06:04)
あとなんかオノマトペの使い方が雑っぽい・・・
ぴす(参加) (2013-07-07 23:06:07)
にとりのみで書いてもおもしろそうだったんだけどねw
かじつ(参加) (2013-07-07 23:06:11)
にとりにそもそもそういう相手がいるっていうことが読者との間で共有されていないと
かじつ(参加) (2013-07-07 23:06:15)
「え? 誰?」
かじつ(参加) (2013-07-07 23:06:18)
ってことにならんの
K.M(見学) (2013-07-07 23:06:27)
あー……
生煮え(見学 (2013-07-07 23:06:36)
伏線の無い伏線消化になってしまっていると
I・B@鉄球(司会) (2013-07-07 23:06:37)
そろそろ
K.M(見学) (2013-07-07 23:06:40)
なるほど
かじつ(参加) (2013-07-07 23:06:42)
そこって誰も読んでて気にしない系? ひょっとして。
H2O(参加) (2013-07-07 23:06:43)
ぼかしてあるからの想像とかもあるかも
ぴす(参加) (2013-07-07 23:06:44)
読者がにとりとカップリングの知識があるとらくちんだね
かぼちゃ(見) (2013-07-07 23:06:45)
にとりは察する、というのに読者との乖離感はあるかも
ぴす(参加) (2013-07-07 23:06:51)
ということを期待して書いたんだ
つくね@鈴仙と参加 (2013-07-07 23:06:55)
私は非公式だがみとりの方を創造したなぁ、橙と藍という身内関係から。
I・B@鉄球(司会) (2013-07-07 23:06:57)
いったん、ここまで
I・B@鉄球(司会) (2013-07-07 23:07:01)
次
うるめ@参加 (2013-07-07 23:07:04)
乙っした!