風祝が風邪を引いた。
きっと明日からは風邪祝として山の信仰を集めていく事だろう。
「――って見出しはどうですか、早苗さん?」
「やめてください、そんな疫病神みたいな呼び方」
布団の中の早苗は、傍らで手帳を見ながら取材をしている文に聞こえる声で唸った。
「では、風邪を引く程度の奇跡――すみません私が悪うございました」
「分かればよろしい、です」
からかう文に向けて早苗が布団から取り出したノート、それを見て文は一瞬で手の平を返す。
まだ黒い若さに溢れていた頃の文が書き慣れない新聞として書こうとした黒い新聞記事が、そのノートに秘められているのだった。
「お見舞いに来てくれるのは嬉しいですけど、私は病人なんですからもっと大人しくしていてください」
「病人、ね」
ふと、文は仰向けに横たわっている早苗の顔を覗き込んだ。
熱の所為か少し赤らんでいて、微かに汗が滲んでいる。時折苦しそうに唸っている辺り、身体の方も相当堪えているのだろう。
「……こういう時、風邪を引かない文さんが羨ましいです」
それ以上に、いつもの文をジャイアントスイングしかねないパワフルな早苗が、何でもない風邪一つでこうして弱っている。
その事が、文の心に引っかかる。
「そうですね、私は風邪を引いた事は有りませんし、仮に風邪になったとしてもすぐ治っちゃうと思います」
「え?」
「だからその風邪、私が貰っちゃいましょう」
そう言って文は、早苗の唇を奪った。
「――元気になりましたか?」
たっぷり数十秒、文は早苗に口付けたまま、離れようとはしなかった。
早苗は慌てて文に何か言おうとして、軽く咳き込む。
「い、いきなり何するんですか!」
「確か、風邪は人にうつるとうつした本人は元気になるんですよね?」
「そういう問題じゃないです!」
そこまで言い切って、早苗は勢いに任せて起こしていた身体をふらりと倒した。
一気にまくしたてた所為か、一時的に風邪が悪化したらしい。
「……文さん」
早苗は弱々しげに文を見つめて、か細い声で言う。
「風邪、まだうつってませんよ?」
その瞬間、文は確信した。
風邪を引いていても、早苗はいつもの早苗だったと。
お題:風邪
時間:30分
やばいと思ったが欲望を抑えきれなかった
ライア
『かぜほうりなげ』 ライア
ライア(司会代行 (2013-06-19 23:35:40)
どうぞ
K.M (2013-06-19 23:36:03)
まさかの組み合わせ被り
寝子 (2013-06-19 23:36:15)
これは逮捕ですわ
鞘の花 (2013-06-19 23:36:30)
その貰い方は予想外だった。
ライア(司会代行 (2013-06-19 23:36:49)
最近あやさなが熱い
名無しさんB(見学) (2013-06-19 23:36:55)
冒頭が上手いですね
名無しさんB(見学) (2013-06-19 23:37:07)
すっと話に入っていけます
K.M (2013-06-19 23:37:25)
あややが押してると見せて最後の最後で押してるのは早苗さんという
かぼちゃ(見) (2013-06-19 23:38:50)
急なのはありますが、ストレートなので二人はこういう関係なのだ、とすぐに理解できるのはありますね
K.M (2013-06-19 23:40:37)
ノートはあくまできっかけでしかなかったんだろうなぁ、振り回す振り回されるの立ち位置決めるのは……と想像
かぼちゃ(見) (2013-06-19 23:42:08)
何十秒もキスをする間柄、と思うと、冒頭の軽さ、一般的な関係は繋がりとしてどうかと思うのもありますが
かぼちゃ(見) (2013-06-19 23:42:36)
(読者も)あやさななんだ、という前提と考えればスピードはあるかと思いました
ライア(司会代行 (2013-06-19 23:44:36)
そろそろお時間で御座います
ライア(司会代行 (2013-06-19 23:45:00)
それでは最後の方へ